オトノツバサ | ナノ



15 ヘアカット100
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「うわー、だいぶ降ってきた。」

お昼過ぎから降り出した雨は、3時過ぎには雪に変わり、今では濡れて黒くなったアスファルトの上が、うっすら白くなるほど。

本当なら酷くなる前にさっさと帰ればいいんだろうけど、運悪く、今日は美容院に行かなくちゃならないのです。こればっかりは予約やらなんやらありますからね、しょうがない。制服の肩に積もった雪をお店の入り口で払い、暖かい店内に入るとホッと一息ついて、受付のお姉さんに挨拶。

「こんにちはー。」
「あら、愛ちゃん、いらっしゃい。早かったのね。」
「あまりの寒さに、寄り道もできませんでした、、、」
「うふふ。じゃ、温かいお茶入れてあげるからそっちに座ってて。」

実はここ、お兄ちゃんが働いてる美容院なので、お店の人はだいたい仲良し。ちなみに、今お茶を入れてくれてるお姉さんは麻由美さん(推定25歳)。

お兄ちゃんとわたしは年が一回りも離れているおかげで、小さい頃からケンカになることもまったくなく、ひたすら猫可愛がり状態。今も、月に一度はお店に顔を出しにくるように言われてたりするわけです。とはいえ、ただいま髪を伸ばし中なのであまり切るところないんだけども。一度、前髪をセルフカットしてメチャクチャ怒られたことがあるので、素直に毎月通っております。


「あ、愛、ゴメン!急に指名入っちゃってんだわ。代わりに麻由美さんに頼んであるから!」
「はーい。」

受付前の大鏡の横から顔をのぞかせて、わたしにそう伝えた後、周りのスタッフにテキパキと指示を出すお兄ちゃんを見ながら、こじゃれたソファにちょこんと座って麻由美さんの淹れたお茶を飲む。

身内のことなのであまり褒めるのもなんですが、こう見えてもお兄ちゃんは意外と売れっ子で。雑誌の仕事なんかも受けてるくらいだし、指名も多いのですよ。えへん。

お茶を飲み終わった後、カット台に移動。
「今日は前髪カットよね?」
「はい。えっと、形はこのままで。伸ばしてるので。」
「じゃ、全体は整えるだけにしとくね。」
「はーい、おねがいしま」、、、、、え?

ふと、鏡越しに、斜め後ろでお兄ちゃんがカットしてるお客さんと目が合った。
見覚えのあるキツネ顏。見間違えるわけがない、そう、またもやヤマケンくん。
あー、、、、うちの兄をご指名、ありがとうございます。

年末からこんなことばかり続いているわりに、まだまだ不意打ちには弱いわたしはポカンとしていたのだけれども、ヤマケンくんは特に驚いた様子もなく、すぐに持っていた雑誌に視線を移してしまった。

む。無視か。声くらいかけてくれてもいいじゃんよ。
ちょっと凹んだ。凹みやすいんだぞ、わたしは。

そんなわたしの心のうちを知らず、麻由美さんがピンでブロック分けをしながら能天気な話題。

「ねえねえ愛ちゃん、高校はどう??彼氏とかできた???」
「できませんよー。女子校ですよ?」
「ふーん。でも音女でしょ?他校と合コンとかたくさんあるでしょ?」

「あのねー、うちの妹は真面目なの!合コンなんかには興味ないの!!な?」
ドライヤーを取りに来たお兄ちゃんが口を挟む。

「そんなことないもん。行くもん合コン。彼氏も欲しいもん!」
お兄ちゃんの決めつけの口調についつい子供っぽい言葉使いで反論してしまう。
おっと、ここは外だった。しかも、後ろにはヤマケンくん。

ショック顔のお兄ちゃんはほうっておいて、チラッとヤマケンくんを覗き見ると、やっぱり雑誌を読んでるだけでこちらには興味なしって感じだ。

今の子供っぽい態度は見てて欲しくなかったけれども、こちらのことは気にして欲しい、この複雑な乙女心よ。


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