12 真冬のフラペチーノ。
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一月の寒空の中、スタバの窓際カウンター席にて、大騒ぎの男子に囲まれつつ、両腕を拘束され囚われの宇宙人状態です。新年早々、なんなのこれ?
が、捨てる神あれば拾う神あり。 窓がコンコンとノックされた音に気がついて前に向き直って見ると、そこにはサヤカ。あー、もう、好き。大好き。あなたのそのタイミングの良さ!!
グロスでツヤツヤとした形のいいサヤカの唇が、ナニヤッテンノ?ダイジョブ??と動いたのを見て、思い切りブンブンと首を横に振る。 大丈夫じゃないです!わたし、もうイッパイイッパイデス!!たーすーけーてーーー!!!
そして騒ぎ出す背後。 「おお、かわいい!!」 「成田ちゃんの友達!?中に呼んで呼んで!!紹介して!!!」
矛先が変わったおかげか、サヤカが気になるのか、ようやくヤマケンくんも両腕を離してくれる。恐る恐る後ろを見ると、「あっちの席、空いてるから移動な。とりあえずどっか座わらせろ。」
はい、、、 つか、なんでそんな怒った顔してるのよ、、、わたしが何した?
「サヤカですー。愛とは中学から同じ学校。」 「へえ。学校どこ??」 「高校は音女だよ。中学は違うけど。」
ニッコリ笑って自己紹介をするサヤカを見ながら、ふと、合コンってこんな感じなんだろうな、などと思った。マーボくんとジョージくんは、サヤカが好みのど真ん中だったらしく、えらい食いつき様です。
そんな中、頬杖をついたトミオくんがじーっとわたしを見ながら、 「オレさ、どっかで愛ちゃん見たことあるような気がすんだよなー。」と。
そこへ、さっきまでサヤカを質問攻めにしていたマーボくんが口を挟んでくる。
「うわっ、さぶっ!今時そんな口説き方ないわー。マジ引くわー。」 「うるせーなー、そーじゃなくて、マジで見覚えがあるって言ってんの!!」 「ふーん、じゃ、あれかな?合コン??音女とはけっこうやって、、、」 「それはないと思うよ。この子、合コン一度も行ったことないから。」 「合コン一度もないの?なんか、それいいわー。」 「あー、トミオ、そういう子に弱そお、、、」
本人不在のまま話がどんどん進んで行くのを、テンポの良さに圧倒されながら見てると、飲み物を買ってきたヤマケンくんが、サヤカに何か耳打ちし、彼女の前にフラペチーノを置いたあと、わたしのソファの横にドサッと座った。
いつの間に、サヤカから注文を聞いたんだろう。抜け目ないわー。 そして、となりのヤマケンくん。隣の席に座るのは、予備校で初めて喋った日以来だ。あの時は本当にビックリしたよなー。あれからもうすぐ一ヶ月くらい?別世界の人たちだと思っていたのに、まさか、サヤカまで巻き込んでお茶会とは。人生、わからないもんだ。
「どうだった?」 「え?」 「それ。」
今日再会してからずっと怖い顔のままのヤマケンくんが、アゴで、わたしの膝に乗せたカバンの中からのぞくイヤホンを指す。
「ああ、イヤホン。えっと、フラットで聴きやすいよ。」 「ふーん。オレも試しに買ってみよーかな。」
おおう。試しに買っちゃうんだ。おぼっちゃんめ。
「あ、でも、ジャンルによっては低音が物足りないかも。」 「そう。」 「・・・・・」
あー、会話終わっちゃった。もっとインプレした方がいい??って、違うよね。世の中の女の子に求められるのは、そんな音響話じゃないはず。 わたし、ほんっとにこういうの苦手だなー、、、
すぐ横では、未だにわたしを見たことあるのないのの話しで、サヤカと三バカくん達が盛り上がってる。サヤカは本当に話を盛り上げるのがうまい。愛は頭がいーね、と、試験のたびにサヤカは言うけど、本当に頭がいいのは彼女の方だと、こういうときにシミジミ思う。
「これさ、」 「ん??」 「視聴させて?」 「あ、どぞ、、、」
不意打ちにビックリしつつ、カバンからiPodを取り出しヤマケンくんに渡す。 コーヒーを飲みながら、片手でグリグリとiPodをいじってる様もかっこいいわけですが、なんか、さっきマーボくんたちとギャイギャイ騒いでたヤマケンくんも、年相応の男の子っぽくて良いなあなどと、思う。
「なあ、これ、なんて曲?」
ディスプレイ見ればわかるはずなのに、片耳だけイヤホンを外し、身体を近付けわたしに差し出す。
「ええと、、、」
イヤホンから漏れ聞こえるのは、ギターのアルペジオ。そして心地よいノイズ。
「あぁ、"endless summer" だ。季節感なくてゴメン、、、」 「ふーん。クラシックばっかり入ってるのかと思ってた。」 「そんなことないよ。あ、ちなみにこれは、お兄ちゃんに借りた十年くらい前に流行った曲。」 「流行るかぁ?こんなの。」 「うん、言い過ぎた、、、エレクトロニカの中では、話題になった、くらい。です。」
ふーん、と興味なさそうにしながらもイヤホンを戻し、きっちり曲が終わるまで聴いてくれたヤマケンくんを、わたしはもしかしたら、ちょっと好きなのかもしれない。
だって、 こんなにもドキドキしている。
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