オトノツバサ | ナノ



08 今年最後の林檎飴。
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ゴーン ..... ゴーン ..... ゴーン.....

年末です。師走です。ものっすごい寒いです。
すぐそばで打ち鳴らされている除夜の鐘が鳴り響く境内の、それ以上の喧騒にクラクラしつつ、サヤカと二人で初詣の列に並んでおります。

「なんか、こういうの始めてだから楽しい!!」
「へえ。愛のうち、けっこう厳しいの?」
「そういうわけじゃないけど、とりあえず、こんな時間にお出かけするような中学生ではなかったでス。」

年末年始はレッスンも、予備校もお休み。今年の年越しは、サヤカの家にお泊りということで家をだしてもらえたのだけども(ハキハキとして礼儀正しく美しい友人は、うちの両親受けバッチリです)、彼女の家で着物道楽のお母様に着物を着せてもらって深夜徘徊中。なのです。

「着物って、帯をキュッと締めるから背筋が伸びて気持ちいいねえ。」
「お稽古用の小紋だけどね。ま、気分は変わるよね。」

着物を着ているせいでもあるが、神社ってのは大昔の感覚の鋭い人達が、それこそものすごい気を使って方角だとかを決めてるせいか、いつ来てもなんとなく良い空気が流れてる気がする。風水とか、信じてみてもいいなあと思うくらいには気持ちが良い。

「そんなことよりさ、メールは来たの?」
「え?」
「え?じゃないでしょ、ヤマケンよ、ヤマケン!メアド交換したんでしょ?」
「あー、、、した、けど、特に連絡は、、、ないよ?」
「あら、つまんない。」
「女子には連絡先聞くのが礼儀、くらいに思ってるんでしょ。あんまり深い意味はないというか。」
「ふーん、メアド交換までしておきながら、愛は相変わらず別世界の人発言かー。」
「そうそう。そんなもんよー。」

興味なさそうな対応をしながらも、思い返すと、ちとさみしい気持ちになってきた。
そうなんだよな、きっと全然深い意味はなくて、とりあえず聞いてみただけというか、次はわたしがご馳走する番だなんて約束も社交辞令か軽口かってなくらいで。わたしからメールをすることだってできるけれども、メールをする理由がまるで見つからない。
スタバで一緒にコーヒーを飲んでから今まで、何日間?けっこうドキドキして楽しかったけど、まあ、元から違う世界の人だと思えば、、、

盛り上がったり、盛り下がったり、水面下で忙しくしているわたしを置き去りにし、サヤカは列を外れて林檎飴なんて買ってる。あ、戻ってきた。なんかニヤニヤしてる。

「あのさ。わたし、噂のヤマケンくん、、、見つけちゃったかも!」
「え?どこに??ここで??」
「ほら、あそこ。」

買ったばかりの二本の林檎飴が指した場所には、男の子四人組。
なんというか、えーと、えーと、、、

「うわー、、、ガラ悪っ。」
「ね。でも、ヤマケンくんだよねえ??」
「予備校で眼鏡かけてたし、、、勉強してるとこしか見たことないから自信ないけど。たぶん。」

ああしていると、とても海明学院の生徒には見えない。でも、私服姿もかっこいいなあ。というか、他の三人とはどういう関係なんだろう?などと思っていると、その心の声が聞こえたかのように、サヤカが携帯をいじりながら「あー、そんで、あの三人が海明の三バカだって。」と。

「え、あれみんな海明?うそぉ!?、、、というか、何見てるの?」
「さっき、ヤマケンファンの子に写メ送ったの。ヤマケン発見かも、って。で、返信に連れの子の解説が。ほら。」

携帯を受け取りメールを見ると、三人の呼び名と、特徴。これが合っていれば中央の人物はヤマケン確実ってことか、、、どうやらメール主は家族旅行中らしく、この場に駆けつけることはままならず。サヤカずるい!!と、その後呪いの言葉が続いていた。

「あ、やだ、絡まれてるじゃん!!」
「あんな目つき悪い集団、絡みたくもなるよねえ、、、」
「って、愛、一応知り合いなんでしょ!?なにその冷静な反応!」
「や、大丈夫っぽいから?」

いかにもな男子校生グループとかち合って一触即発状態だった三バカくん達は、中央のヤマケンくんらしき人物に促されて、捨て台詞の応酬をしながらもそのグループから離れた。

そういえば、予備校でも第一印象はすごく怖かったっけ。水谷さんと一緒のデコボココンビだったから、いつのまにかこわいって思わなくなってたけど、もともとのヤマケンくんってあんな感じかも。

「あ、右端の背の高い子、けっこうかっこいーじゃん。」
「えーとね、あれはたぶんトミオくん。」
さっきから持ったままのサヤカの携帯を見ながら解説。

「ふーん、じゃ、キャンキャン吠えまくってるあのちっちゃい子は?」
「マーボくん。超お金持ちだって。」
「じゃ、あの黒髪眼鏡の子。」
「ジョージくん、、、って、ねえ、三人についてはあだ名でしか書いてないんだけど。」
「きっと、正直どうでも良かったんだろうねえ。本名を覚えてるかも怪しーよ?」

どうやら、ヤマケンくんの連れの不良(っぽい)三人組は、うちの学校では三バカ呼ばわりのようで、合コン常習者な割に、実りのない結果ばかりだそうな。よく見ると、みんなけっこうかっこいいのにね。(ガラ悪いけど)

サヤカから受け取った林檎飴の袋を開け、てっぺんの飴の部分をカリカリとかじる。林檎にたどり着くまでには年が明けてしまいそうだ、と思ったそのとき、周りからウワッと歓声が上がり年が明けたことを知った。

サヤカに向き直り、うやうやしくお辞儀をする。

「あけましておめでとうございます。」
「はい。おめでとうございます!」
「今年もよろしくね。」
「うん。今年こそ、愛と恋バナできますように。」
「何、それ。」
「だってー、わたしたち女子高生よ!?恋愛は必修科目よ?つか、仕事よ、仕事!!」
「、、、がんばります。」

恋愛話かー、わたしの場合、まず男の子と知り合うところから始めないといけないわ。どこかに良い出会いは落ちてないもんか。
「わたしも合コンとか、行ってみようかな。」とつぶやくと、サヤカがウワッと盛り上がる。

「おおっ、ようやくやる気に!?来週暇??あるよ、合コン!!」
「あ、来週からレッスン再開だから無理だ。」
「またそれかー。」

少し離れたベンチのところにたむろする、不機嫌そうな顔をしたヤマケンくんをぼんやり眺めつつ、とりあえず、遠くから見てるだけの人とは恋愛はできないもんな。などと思う。

なに、この、始まってもないのに終わってしまった感。
新しい年の幕開けに、どこまでも後ろ向きなわたしにガッカリだ。


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