首をつっこむ

「女の子って難しいっすね」

 ある雨の日の練習終わり、窓の外を見てぼーっとしていた悠人が、そんなことを呟いた。
 先輩として言うのもなんだか情けないけれど、オレから見てもこの新開悠人という後輩は正直よくわからない。普段は飄々とした態度でいるが、高田城のようにその根底に冷静さがあるわけではなく、レースや勝負事となったら負けず嫌いで独善的なところも表に出たりする。
 悠人の兄である卒業生の新開先輩に一見似ているようでいて、実は全く似ていない。

「悠人、恋してるの?」
「いや、直球で聞きすぎだろ真波! 空気読め!」

 首をかしげて「え、だって青春ってかんじしません?」とにっこり笑っている真波も、オレにとっては不思議の塊のようなヤツだ。
 そもそも悠人から女子の話が出る時点でレアな出来事なのに、真波が食いついてるのも相当珍しい。真波はマイペースを具現化したようなヤツだから、悠人がどんな話をしていようと今日も先に上がるだろうと思っていた。

「そんなんじゃないですよ。でも、普通に話したいだけなのに避けられてんすよね」
「お前が目立ちすぎるから引かれてるだけじゃねえのか」
「あー、それ言われた気がします」
「どんな女子なんだ?」
「んー、ゴリゴリ文化系ってかんじですね。話してはくれますけど、オレにはあんまり心許してくれない系です」
「で、悠人はその子のどこを好きになったの?」
「だからそういうのじゃないって言ってるでしょ、真波さん。まあ、つんけんしてるけど照れたらわかりやすく表情変わるところとか、かわいいなって思いますけど」
「そういうとこさらっと言うのがさすがだな……」

 兄の新開さん譲りなのか、悠人もときどきさらっとこちらがびっくりするような気障なことを言う。
 あと二年経ってこいつが三年になってからどれくらいモテるのかを想像すると少し怖い。東堂さんのファンクラブに匹敵するようなことになるんじゃないかと思う。

「で、話すようになったきっかけは何なの?」
「何回かノート借りるようになったんで、それっすね」
「ノートって。ベタな声掛けしてんなお前」
「別に、ナンパじゃないですよ」

 普通の女子だったら、急に悠人のような男子から声をかけられたら驚くだろう。それは、「ただからかってるだけなんじゃないか」と警戒されても仕方ないのかもしれない。普段の態度が態度なだけに、悠人が軽いタイプの男と誤解されている可能性だってある。それは少しかわいそうな気がした。
 とはいえ、女子相手に悠人が悩まされている姿は見ていて面白い。アドバイスだけするのもなんだか気乗りしなかった。
 真波も同じようなことを考えているのか、「黒田さん、他人の恋バナって聞く分には面白いですね」と笑っていた。「だな」とオレが頷くと、「あのー」と不満げな顔をした悠人が割って入る。

「別に恋バナじゃないですよ。あと、聞くだけ聞いといてアドバイスの一つもなしっすか?」
「なんかお前は悩んでてもすぐうまくいきそうだから、アドバイスする気が失せた」
「確かにそうですね。悠人は適当にやったら上手くいくよ」
「雑すぎるでしょ」

 オレと真波の適当な返事に悠人は苦笑いして、「まあ、頑張りますよ。オレなりに」と言ってからさっさと更衣室に向かっていった。
 どこまでも余裕があるというか、からかってみても面白味がない。真波もそうだが、クライマーの後輩はこんなヤツばかりだ。その癖、女子からはモテるのだから意味がわからない。

「……ま、本当に嫌ならシカトされてるだろうしな。どうせ脈アリなんだろ」
「ですねー、悠人って意外とそういうところは鈍感だったりするんですかね?」
「お前が言うか、それを?」
「え、何ですか?」

 自分の側のフラグには全く気づいていない真波は放っておいて、オレもさっさと着替えに向かうことにした。




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