xとyを××して

「オレがオマエのこと好きだっつったらどーすんの」

 宅飲みの最中そう聞いた時、オレが高校の時からずっと好きだったもののちっともオレのことなんか見ていなかった女は少しだけ考えて、いいよ、と小さく呟いた。ナニがいーんだよはっきり言えっつの。心の中じゃちっともンなこと思ってねェくせに適当なこと抜かしてんじゃねえよバァカ。東堂東堂東堂、ってオマエはそれ以外なんもねえくせに。でも、こいつがそういう女だってわかってて触れたいとか思っているオレも大概ヤバい。先週オレにコンパでアプローチかけてきた女より胸もかわいげもねーのに、バカみてーに単純に欲情してるし。オレの部屋で二人っきりで「いいよ」とまで言ってのけるこいつの心臓、どーなってんのォ? 
 いくら大学に入って東堂と疎遠になったからって自暴自棄になりすぎだろ。別れたんじゃないかとか東堂がこいつのことフったんじゃないかとかチャリ部のOBで集まった時に話題になってたっけ。その場に東堂はいなかったから、まああんなん噂だろって形だけフォローはした。けど、あながちウソでもねーのかな。高校の頃はもっとオドオドビクビクしてなかったっか、こいつ。少なくともオレに「いいよ」なんて言うほど肝が据わってはいなかった。
 こぽこぽとコップに梅酒を注いでいる苗字を見ながら、オレはなんでこんな女好きになったんだっけなァ、とぼんやり考えていた。

「荒北くん、私とやらしいことがしたいんでしょう?」
「ブフォッ」

 不意打ちの一言につまみで食ってた柿ピーが喉に詰まる。何ストレートに聞いてんだこいつ、ほんとにバカなのか。男と二人きりの部屋でムードもクソもねえし。ナニ? それはオレに形では聞きつつもそうしろっつー命令? 急かしてんの? ハア?
 高校の頃に東堂はこいつとどう付き合ってたんだか。っつーか好きで付き合ってたんなら卒業した後も連絡の一つくらいしてやれよ。いや、今も実はしているのかもしれねえし、もし東堂と苗字が付き合ってるままならオレが今考えていることは裏切り以外の何物でもない。そう思うと今の雰囲気そのままに手を出すなんてことは躊躇われた。こいつ相手だとどうにも調子が狂う。汚せない。触れるのさえギリギリ、くらい。

「冗談だよ、バァカ」

 わざと吐き捨てるように言い切って、やけくそで柿ピーを鷲掴みして貪り食った。キスしてセックスするくらい大したことじゃねえのに。それを咎めるヤツだっていない。いいよ、と言った苗字でさえきっとオレが何をしたところで怒りも悲しみも嘆きもしないだろう。

「だよね」

 そう言ってちびちび梅酒を飲んでる苗字の横顔は高校の頃よりも少しだけ大人びて見えて、オレは少しだけもったいねえことしたかなァ、とため息をつきたくなった。と同時にこいつが飲みながら東堂の話を一度もしなかったことにホッとしているのも事実で。オレのくだんねえ一方通行はしばらく終わりそうにない。




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