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 最初に知ったのは、高一の秋だったという。
 新開くんは昔からそれなりにモテていたらしい(東堂くん曰く「オレほどではないが」)。告白されることも一度や二度ではなかったもののその女の子たちと付き合うことは一切なく、全く興味がなさそうな様子に周りも「本当に部活バカだな」と呆れ半分で見ていたようだ。

「だから、隼人が自分から告白して付き合い始めたとクラスの女子から聞いた時は本当に驚いたよ」
「…新開くんは何も言ってなかったの?」
「全く、なんにも、だな。あいつはあまり自分のことを話したがるタイプでもない」

 それはわかる。私と交わした数少ない会話の中でも、新開くんが自ら自身の話をすることはほとんどなかった。

「付き合っている割にはあまり浮かれている様子もないし…でも、隼人だからそう深刻に考えることでもないと思っていた」

 新開くんは過去に何度か女子と付き合ったことがある。それ自体はいたって健全なことで、私も知った時は驚きもしなかった。ただ、事情を知った今となってはそれがいかに不自然なことかがひしひしと感じられる。彼は初めから付き合った女の子のことなんてこれっぽっちも興味がなかったのだから。

「……新開くんだから…」
「ああ。きっと周りには見せないだけでちゃんと仲良くしているのだろうと……一週間で別れたと本人から聞くまではそう信じていたさ」


『フラれちまったよ』


「初めはただ動揺してるのを取り繕ってるだけかと思ったのだが……それが何度も続くとなると、な。隼人はフラれたことなんて気にしていなくて、自分から告白したというのに全く未練もないようだった」
「未練がない?」
「…気まぐれだからな、あいつは。天気みたいに気分がコロコロ変わる。一日前まで本気で好きだった彼女もどうだって良くなる。そういうことなんじゃないか」
「……」

 まるっきり間違っているわけでもない東堂くんの考察には、一つ重要な前提が抜けていた。東堂くんにだけは私の口から言うべきではない前提が。

「もちろん、そんなのはプライベートなことだから隼人の勝手にすればいい。ただ、今は大事な時期だ」
「…それが、最初の話とどうつながるの?」

 私の純粋な疑問に対して、東堂くんは何も知らない子供に対して大人が向けるような優しくて暖かい笑みでもって応えた。東堂くんが考えている以上に私は面倒な事情をいろいろと知ってはいるのだけれど、それを伝えるつもりはない。

「隼人はキミのことが本当に好きなんだと思う。寮でもいつも話をせがまれて困るほどだしな」

 それは単に私が東堂くんにどれくらい近づいているのか知りたかっただけだろう。それを東堂くんに不審がられることなくやってのけるのが新開くんのすごいところなのかもしれない。褒める気には到底なれないけど。
 加えて、いくら隣の席だといっても、私が東堂くんと話せる時間など限られている。東堂くんの言葉からそれを感じてちくりと胸が痛む。

「だから応援してやりたい…というのはちょっと美談にしすぎか。苗字の気持ちも大して考えない押しつけにすぎんし、オレはそこまで善人でもない。『隼人が自分のしたことで苦しもうが自業自得だ』……部活に関わらない範囲なら、そう言うさ」

 冷静な声。私に言っているのか自分に言い聞かせているのかわからない、あまり感情のこもっていない声色は東堂くんらしくないものだった。と言っても、私が東堂くんの何を知っているだろう? 知っているつもりになっていただけで、何も知らなかったのかもしれない。

「でも、キミが隼人にとって特別な人なら…今だけでいい、傍にいてやってほしいんだ」

 だって、東堂くんは私のことを、私の気持ちを、まるで知らないのだから。だからそんな残酷なことも言える。私が、それを拒めないということも知らずに。

「ひどい頼みだというのはわかっている。キミが今以上につらい思いをすることになるかもしれない」
「…いいよ」

 大して間を空けずに了承した私に東堂くんはかなり驚いたらしく、目を見開いてしばらく固まっていた。今日は私も東堂くんも、驚いてばかりいる。

「東堂くんが言うなら、いいよ」

 ごまかす必要もないので素直に本音を言った。新開くんに触れないのはわざと。新開くんの過去も、込み入った事情も、私にとっての優先順位はさほど高くない。東堂くんが言うなら――自分でも笑ってしまいそうになるほど単純な行動原理だ。もしかすると、私にとっては東堂くんは本当に神様なのかも。




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