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 毎週見に来いと言われているわけでもあるまいに、律儀に毎週土曜日に制服に着替えて校門をくぐるようになった自分の単純さには我ながら苦笑してしまう。東堂くんだけ見てるわけじゃないし、と自分に言い訳をしながらも視線を向けてしまうのはやはり東堂くんなのだった。
 でも東堂くんや東堂くんのファンクラブの人に見つかるのは避けたかったから、少し時間をずらすことにした。来るのは少し遅めに。帰るのは少し早めに。だから人と遭遇することは余程でない限りありえないだろうと高をくくっていたのだけれど。

「よ」

 予想外なことというのは突然起こりうるもので、下足室で靴を履きかえている間に声をかけられた。私にわざわざ話しかけてくる人など少ないし、声を聞けば誰かというのはわざわざ確認しなくてもわかる。わからないのは、彼がどうしてここにいるのかということだけ。

「新開くん…?」
「今から帰るのか?」
「うん」
「送るよ」

 淀みなくそう言った新開くんに何かひやりとするものを感じて、私は思わず目をそらした。新開くんは練習が終わった直後なのか、ジャージのままで、それなりに急いで来たことが見て取れる。クラスが同じなわけでもない私をわざわざ追って? 何のために? おめでたい妄想を答えにするには説得力がなさすぎた。

「いや、そんな…お気遣いなく」
「遠慮しなくていいさ」
「……えっと」

 あえて断る理由は、ない。徒歩通学な私にとって誰かと帰るというのは東堂くんと一緒に帰るまではあまりないことだったし、楽しい。でも、なんとなく気乗りしない自分がいた。それは新開くんと二人だとあまり話すことがないとか、ファンの子たちから睨まれるのが怖いとか、そういう些細な理由とはもっと別のところにある。
 新開くんはおそらくそれをわかっていた。

「それとも、尽八じゃないと嫌?」
「そ、それは…」

 ずいと顔を近づけられたことに動揺して、思わず一歩下がって靴箱に背中をぶつけてしまう。目の前の新開くんはそんな私の醜態を笑うでもなくただ見ていた。視線が合う。既視感。

「隼人、あまり苗字をからかってやるな」

 その時東堂くんの声が耳に入ったことで、私の意識は現実に引き戻された。新開くんの後ろから現れた東堂くんの姿にほっとして、力が抜ける。新開くんと同じくジャージ姿の東堂くんはいつもと雰囲気が違うように感じられた。

「ごめん、からかったわけじゃないんだけど」
「そうは見えなかったが? …苗字、大丈夫か。顔が真っ赤だぞ」
「あ、ああ…ご、ごめん」

 ただでさえ人と話すことに慣れていないのに、至近距離で男の人と話す上で緊張するなというのが無茶な話だ。東堂くんと一緒にいるときとはまた別の緊張に、少し汗まで出ていた。加えて東堂くんがいるのだからドキドキするのは仕方のないことかもしれない。一方、新開くんは東堂くんが来たことに私ほど驚いてはいないようで、余裕のある表情をしていた。

「尽八も来るとは思ってなかったな」
「女子に聞いたのだ。お前の姿は遠くからでも目立つからすぐ見つけられたぞ。それとフクがインハイのことで話があると言っていた。後でちゃんと行ってやれ」
「ああ、わかった。…って、苗字さんを送っていかないのか?」
「何を言っている。二人で帰るのだろう? 仲良くな」

 にこりと笑った東堂くんは絶対に何か勘違いをしているだろうなと思ったけれど、それを訂正する間もなくさっさと行ってしまった。呆然としている私に「じゃあ、帰ろうか」と促す新開くんは悪戯が成功した子供みたいな笑みを浮かべている。
 新開くんのファンの子は口をそろえて「クールでかっこいい」とか「優しくて素敵」とか言っているし私もそう思っていたけれど、もしかすると新開くんはとんでもなく意地悪な人なのかもしれない。




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