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 学校の中で話しているとつい忘れてしまうけれど、東堂くんは私よりもずっと背が高くて、同い年でありながら周りの人とはどこか違う雰囲気を持った男子高校生で、今までの私だったら積極的に関わろうとは思わなかったタイプの人だ。少なくとも、高校に入ってから二年間はクラスが同じでもさほど関わることはなかった。
 それが今は一緒に下校することが日常と化しつつあるのだから人生というのは何が起こるかわからない。家までの坂をだらだらと上りながら、そんなことを考えていた。

「また考え事か?」
「…あ、ごめん…」
「構わんよ。で、何を考えていたんだ?」
「えっ」

 東堂くんのことだなんて正直に言えるわけもなく「大したことじゃないから」とごまかそうとしたものの、「そう流されると余計気になるな」と食いつかれてしまった。こういうときの東堂くんはわりとしつこい。
 一度気になったことは自分が納得するまでとことん知ろうとするのは東堂くんの長所と言えるけど、今の私にとっては厄介としか言いようがない。

「ほんと、どうでもいいことで…」
「そうも思えんな。…でもキミが何を考えているかなんて大体わかるし、嫌なら言わなくてもいい。今から当ててみせよう」

 そう言って私に指をさすポーズを堂々と決めた東堂くんの姿は自分で常に言っているだけあって様になっていた。
 
「ずばり、本だな」
「本…」
「最近ずっと読んでいただろう。オレはタイトルも著者もよくわからなかったのだが、隼人に聞いたら昔の海外のミステリーだと教えてくれたよ。きっと今は犯人の推理に忙しいのだろう」
「…まあそんなかんじ、かな」

 本当は東堂くんのその読みは一ミリもかすっていないのだけど、ここは合わせておくことにした。推理小説を読んでいたというのは確かに当たっているし、犯人が誰なのかを推理することもそれなりに楽しんではいたから、ごまかすことはそう難しいことじゃない。
 正直東堂くんの読みが思いきり外れていたことよりも、新開くん経由で内容を知られていたことの方が意外だった。

「新開くんも知ってたんだ」
「あいつは推理小説をよく読んでるからな。何かおすすめを聞いたら教えてくれるぞ」
「そうなんだ」

 新開くんがおすすめする本というのも気になるけど、なんとなく聞きづらいような気もする。苦手なのかもしれない、とふと思って、自分で自分の考えがよくわからなくなってしまった。別に新開くんは私の苦手なタイプの人ではないし、優しくて人当たりもいい。
 それでもなぜか近づきがたいものを感じていた。答えはすぐそこにあるはずなのに、はっきりとは見えない。そうした私の心の中のもやもやに気づくこともなく、東堂くんは足を止めて、「もう着いたな」と呟いた。

「ありがとう、東堂くん」
「礼などいらんよ。ではな、また明日」

 手を振りつつ坂を下りていく東堂くんに私は同じように手を振り返して、離れていく距離をただ、見ていた。




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