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「痛っ…!」
「クズ村ぁ、おら、当番なんだからしっかり便所掃除しろよー?」
「いっつもお世話になってんだから、手で直に、心込めてできるよなあ?」
クズ村、と呼ばれた少年が突き飛ばされたのはトイレの床だった。授業も終わり、高校生にとって本来ならば解放されるべき放課後は、彼には地獄のはじまりとなる。数名のクラスメイトに囲まれ、長い前髪の奥からおどおどとした目を覗かせる。
「っそんな、無理――」
「ああ!? 聞こえない。何、是非口も使わせてくださいって? お前ほんとに便所掃除好きだよなー」
集団のなかで一番背の高い男がわざとらしく言うと、回りがギャハハと笑い声をあげた。
「そんなにしたいなら、させてやるよ――っ」
「んぐっ!や、めて、小野くん…!」
「うっわこいつほにんとに舐めてやんの!」
再び下品な笑いが降り注ぐ。少年は便器の縁に向けて顔を押し付けられ、声をあげた瞬間に唇が触れてしまう。
「んじゃ、その調子でよろしくー」
「今日ゲーセン?」
「合田来んの?」
「知らねー、呼ぶか」
男子生徒たちは、すぐに少年の存在を忘れ去ったかのような会話でトイレを後にする。あとには、便器に這いつくばったままの哀れな少年が残されていた。
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