7.
その後、一ノ瀬主任とは一度も顔を合わせることはなかった。時々、頼んでもないオフィスチェアがしばしば俺宛に届き、そのたびに返品しているがそれはたぶん関係ない。そうこれは全然関係ない。関係ないったら。
ただ、今でもあの地下室で一人怪しげな実験を繰り返えしていることを思うと、どうしても奴の沼地の底のような眼を思い出しては背筋に寒気が走る。すると座っている椅子のひじ掛けが触手に変形したかのような幻覚をみるのだった。
「だあクソ!!」
「阿知谷くん!?」
そのたびに反射的に立ち上がり、立ったままものすごい勢いで仕事を片付ける俺をみて、最近はさすがの社長も俺のメンタルを心配し始めているようだ。
先日はついに異動を打診された。
「なんか──基礎研究所からものすごい熱量で君にお声がかかってるんだけど…」
「お断りします」
俺は今月に入って5台目のオフィスチェアを返品しながら答えるのだった。
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