6.

「と、いうことですので社長。もう今期はなんでもかんでも承認しないでくださいね」
「……阿知谷君、なんでジャージなの?」
「そんなことはどうでもいいんです!」

今朝のお返しとばかりに社長の机をバンと叩くと、社長と一緒に俺の隣のボサボサ頭までひょろ長い身体をすくませる。

あの後、ようやく機能を停止した触手椅子5号から自力で脱出した俺は、『な、なんで5号の責めを受けてすぐに立ち上がれるんだ君は!?』とかなんとか言っている一ノ瀬主任をとりあえずグーで殴り、とにかく着替えを調達させた(なぜかスーツではなくジャージを買ってきたのでもう一発殴っておいた)。
そしてその足で一ノ瀬主任を引き連れ社長のもとへ向かったのだった。

一通り社長にお説教した後、ついでに一ノ瀬主任の有給は別日に変更して今日は出勤扱いにするよう指示してやった。
最早地面と垂直になるほどに口髭をしょんぼりと垂らす社長を残し、ようやく俺は自席に戻る。
なぜか席まで一緒に着いてきた一ノ瀬主任が俺をまじまじと見降ろして突っ立っているのが気になって仕事に集中できない。

「一ノ瀬主任、もう研究所に戻ってもらっていいですよ」
「いや、阿知谷さん……あれだけのことがあって、まだ仕事できるんですか?」
「当たり前でしょう。まだ仕事は終わってませんからね。」

面食らった顔で黙りこみ、やがてブツブツと薄気味悪い独り言を始めた一ノ瀬主任をいい加減に放置することに決め、自分の仕事に集中する。
『……あの反応…数値…体力……逸材……絶対に…』とか言ってる気がするけど聞こえないふりをする。

「あ、そうだ。一ノ瀬主任。触手椅子5号は来年から棚卸しリストに入れてくださいね」
「…はい。あの、6号の試作品もまもなく完成するんですが」
「二度と座らんぞ俺は!!!」

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