4.

「……っぁ、っく、ぁ…っも、ぉ、──む、りぃ…ッ」

結果として、無防備に空気に晒された俺のそれは情けないほどに立ち上がっていた。
相変わらず両の足はM字に固定され、すでに全身が蠢く触手に覆われている。触手が分泌する媚薬と、俺の汗と涙と涎とカウパーでくちくちくち、じゅくじゅくじゅくと、粘着質な水音が絶えず地下室に響き渡っていた。

触手は俺の全身を包む一方で、痛いほどに硬くなったそれには一切触れようとしない。
ご丁寧に乳首の周りに蠢く触手も、乳輪を刺激するだけでその中心を刺激することはない。
俺は乳首で感じたことはねーよ、と思いつつ、我が社の媚薬は指(触手?)一本触れずとも乳首開発が可能なようで、今はもはやその刺激すら渇望している自分がいた。

この状態ではたしてどれ程の時間放置されているだろうか。大声で助けを求めたのは最初の数分で、そのあとは終わりのない昂りと緩やかな責めへの抵抗に気力を使い果たし、今では口の端から漏れる涎や嬌声を取り繕うことすらできない。
足りない刺激。だけれど身体をよじって逃すこともできない刺激。

恐ろしいことにその間一ノ瀬主任は一切触手たちを止めることもなく、ただただ俺の乱れる様を観察している。
歪んだように見える口元はおそらく笑っているのだろう。この男は気が狂っているのだと確信する。

「い、ちの…せっ、しゅにん、いつまっで、…っ見て……ェっ!!」
「いやー申し訳ないんだけど、一度動作したら最後まで僕には止められないんだよね」

最後?「最後」ってなんだよと思いつつ、もはやこれ以上言葉を紡ぐ余裕がない。
太腿を、脇を、背骨を、うなじを、耳を、膝の裏を、足の裏を、手足の指の間を、延々となぞり、しゃぶり、ついばみ、時に甘噛みされる。
何も考えられない頭で、プライドも何もなくただ一ノ瀬主任に懇願する。

「たのっむ、止め──ぇ、いち、の、…せっ、しゅ、」
「ん−体力の限界も近そうだから、そろそろ説明してあげるね。今この触手椅子は『焦らしモード』になってる」
「……っは、じ、らし、」
「このモードである限りは、ある台詞を言わないと例え泣いて懇願したとしても絶対にイカせないってモード。あ、イったらちゃんと終わるから安心してね。まあ調整次第では死ぬまで責め続けることもできなくはないけど、さすがに商品化するには…ねえ?」

淡々と語る目の前の男は、ついさっき初めて会った時の貧弱な印象はもはやない。
一介の研究員として、研究のためなら、その成果のためなら、人の人生や命なんてなんとも思ってないのだろう。

「……っセリフっ教えろ──はや、く!」
「ユーザーが自由に設定できるんだけど、今はデフォルトで『俺のガチガチに勃起したやらしいチンコを触手でたくさん苛めて思いっきり射精させてください』になってる」

俺はもうデフォルト設定の趣味の悪さに突っ込む余裕もない。
その台詞を言うくらいならこのまま裸の変死体で発見されたほうがまだ人間の尊厳を保てる気がする。

「ちなみにAIの音声認識だから、それなりにはっきり言わないとクリアできないよ」
「っざ、け──な、っぁ゛っ、」

そもそもすでにもどかしい快感に長時間浸された俺の脳みそでは、もはやその長さの台詞を正確に記憶することすらできない。
一ノ瀬主任が大サービスで紙に書いてくれたとしても呂律の回らない状態ではとても言い切ることは難しいだろう。
それでも人間としての最後の尊厳を諦めきれない俺は、こいつがバッテリー駆動である可能性にかけて、俺の命が尽きる前にバッテリーが切れることを祈るしかない──そう思った矢先だった。

「あ、思い出した」

俺の思考を読んでいるかのようなタイミングで、一ノ瀬主任が白々しく声を上げる。

「この焦らしモードだけど、一定時間例の台詞を言わないと、"お仕置きモード"に自動で切り替わるんだった」
「な、に───」

『設定時間が経過しました。"お仕置きモード"に移行します』

4/8

[*prev] | [next#]


page





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -