2.

振りほどこうと思えばすぐにそうできるくらいの子供だましのような拘束。ただのごっこ遊びだと言い聞かせるようにまた私に笑いかけると、少し垂れた目じりにぎゅっとしわが寄る。それに気を取られているうちに、筋肉質な腕が私の肩をつかみ、そのまま無防備な状態で全身鏡の前に立たされていた。

部屋に入った時に無駄にでかい鏡があるとは気づいてはいたが、まさか自分の間抜けな姿を映すことになるとは思ってもみなかった。

「え、」
「見て」

中年のだらしない身体、とまではいかないが、意地の悪い笑顔で私を見上げるこの若者に比べれば大分見劣りする。後ろ手にされたせいで余計見せつけられるようだった。つけっぱなしのテレビの青白い光に照らされ、輪をかけて貧相に見える。

幼さの残る顔が私の肩にちょこんと載せられて、鏡越しに目が合うと途端に羞恥心が沸き私は俯いた。

「───っあ、」

その下に向けた視線に見せつけるように、腰に回された両手が股間に延びて下着越しにやわやわと蠢く。

快感にもならないもどかしい感覚に思わず腰が引けるが、がっしりとした体躯がそれを拒む。

「ほら、見て」

鏡越しに自らを見る勇気がなく、肩に乗せられたいたずらっ子のような顔に目を向ける。しかし目が合うことはなく、彼が真っ直ぐに見据えているのは鏡に映る私だった。

そのまま鏡越しに私の反応を楽しむように、両の手がゆっくりと腹を這い上がる。指の通った道筋が熱をもち、まるで先の鈍った針でなぞられているようだった。

「……っ、ふ、」

その先の刺激を期待していることを悟られたくなかったが、胸板に近づくにつれ、荒い呼吸が自然と漏れ出た。私の期待を見透かすように、10本の指は固く立ち上がった胸の中心をかすめることもせず、くすぐるようにその周辺を挑発する。

「ちゃんと前向いたら、触ってあげますよ?」

後ろ手に縛られ鏡に対峙したこの状況のせいか、こんな学生に意地の悪いことをされているせいか、それともやけに熟れた手技のせいか、いつにもまして随分と過敏になった身体は、すでに這い回る指に反応しないようにじっと立っているのが精いっぱいだった。

この状態で期待している場所を触れられたら、情けない姿を晒してしまうことは明らかだった。

縛られた後ろ手も、後ろから抱えられた身体も、その気になればいつでも自由になることはできる。しかし、そうしようとは思わなかった。けれども、この状況を悦んでいることを認めることもできなかった。

「―――む、り」
「……ん?」
「――っぁ、ひっ、」

私の抵抗と同時に、背中を抜けるような痺れが走った。背骨に沿って這い上がった舌が、首筋から耳殻に侵入する。膝がかくんと震え、内股の格好になってしまうのを全身の気力を振り絞ってこらえる。

「耳より、背中のほうが弱い?」
「ひ、ぁ゛っ」

背骨の数を数えるように、皮膚に浮き出た突起を、舌先が上へ下へと丁寧に舐めあげ、時に吸い上げて、私が一番反応する場所を探りあてる。そうしながら胸を這っていた指は乳輪の縁を爪で掻くようにクルクルと小さな円を描きはじめていた。

「ふ、ぐ……っぅ、や、めっ、」
「おにいさん、可愛い」
「恥ずかしくて感じてるところ、自分で見たら、もっと興奮するんじゃないですか」

このもどかしい責めから解放されたくて気が狂いそうだった私は「もっと」という言葉に思わず反応して、顔を上げた。外にも内にも逃げ出そうとする膝の上で、腰を小さく前後に揺らし、背中を舌が這い上がり、なぞり下りるたび、爪が乳輪を掠めるたび、だらしない嬌声を噛みしめる私が目の前に立っている。

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