伊作:医学系大学院生
仙蔵:大手化学系メーカーの研究員
マンションで同棲中









金曜日の夜、仕事から帰ってきた仙蔵はソファにしとどに寝そべり、何となしにテレビを点けていた。

10時のニュースが終わり、CMに入ったところでガチャリと鍵の開く音がした。
「ただいまー」
玄関から久方ぶりに愛しい人の声が聞こえて、仙蔵は寝転んでいたソファからがばっと起き上がった。階下の住人には迷惑だろうが、足音が響くのも気にせず玄関までの短い廊下を走る。玄関ホールで靴を脱いでいる最中の彼の背中に呼び掛けた。
「おかえり、伊作」
「ただいま、仙蔵」
靴を脱いで玄関に上がった伊作は、仙蔵を抱き寄せて頬に軽く触れるだけのキスをした。別に私も伊作も海外で生活していた訳ではないのだが、いってらっしゃいとおかえりなさいのキスは最早恒例になっている。
「学会はどうだった」
「うん、つつがなく終わったよ。そういえば、9月のフィンランドって寒いんだね!もう長袖じゃないと過ごせなくてさ」
楽しそうに話す伊作に相づちを打ちながら一緒にクローゼットのある寝室に向かう。

ジャケットを脱ぎ、白いシャツに覆われた背中が露わになる。やや細身だけれどしなやかに筋肉のついた、仙蔵の好きな背中。伊作の少し細めの白い指がネクタイを解いていく。そのネクタイは以前ふざけてお揃いで買ったものだった。二週間の海外出張に、それを選んで持って行ってくれたことが仙蔵は嬉しかった。
「二週間もいたら流石に寒いのにも慣れたけどね…」
彼の繊細な指の動きに見とれていると、背を向けて喋っていた伊作が急にこちらを向いた。
「…仙蔵がいないのには慣れなかったよ」
彼の優しい腕が伸びて、やんわりと伊作の胸に閉じ込められる。
「…ふん、寂しがり屋だな」
伊作は苦笑した。しかし、伊作にはきっと私の気持ちなどお見通しだろう。矜持が邪魔して自分は中々伊作のように素直に言葉にできないが、今日などは感情が態度に出まくってしまっている。

と、その時リビングから携帯の無粋な電子音が聞こえてきた。あの曲ということは文次郎かはたまた長次か、誰かまでは分からないが大学時代の友人からだろう。二週間振りの伊作との一時を邪魔されたことは腹立たしいが仕方あるまい。
いさ、と呼び掛けてみたが、聡い彼のことだから私が何を言わんとしているか分かっているだろうに、伊作が腕を緩める気配は無い。むしろ肩に顎を乗せて凭れ込んでくる。そうこうしているうちに携帯は鳴り止んでしまった。
「伊作」
ようやっと伊作は腕を解いたが、代わりに仙蔵の肩をがっしり掴んだ。そして、やや上目遣いに、太く長い睫に縁取られた猫のような目で見上げてきた。
「ねぇ、仙蔵。今日は僕のことだけ…僕だけを見て」
「………伊作、」
耳元で駄目?と囁かれて、小さく肩が跳ねた。それを見てくすくすと笑う伊作の足を軽く踏みつけて一言、駄目じゃないと言うのが精一杯だった。恋人からそんな事を言われて、まして二週間振りに会って、胸が高鳴らない男などいない。しかも上目遣いで。
「駄目じゃないなら、」
軽く肩を押されて、仙蔵はベッドの端に腰掛ける状態になる。そのまま伊作に口づけられた。今度は頬じゃなく唇に、深く、深く。唇が離れたあと、伊作の目を見ると、瞳の奥に僅かに、しかし確かに雄の色が見えた。予想通り、そのままベッドに優しく押し倒される。シャツを脱ぎ捨て、上半身はタンクトップだけになった伊作が覆い被さってきた。「風呂はいいのか」
「入ってもどうせまた汗かくからいい」
そうだなと嗤った口は再び伊作の口づけで塞がれた。









title:hmr様よりお借りしました

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