翁に伴われて仙蔵の部屋にやってきたのは、二人の皇子、右大臣、大納言に中納言という錚々たる顔ぶれであった。国に並びないやんごとなきお大尽達が、自分を必死に追いかけている状況というのはなかなかに面白い。一方、五人の公達は噂に違わぬ仙蔵の美しさに揃って顎を落としかけていた。誰もが、彼が男で良かったと思った。女ならば間違いなく楊貴妃の故事の様に国が傾く。彼らの前に座した仙蔵は不敵に笑った。
「私が立花仙蔵です。私を見られて満足なされたか?ならお帰り下さい」
仙蔵はそれだけ言うと水干の袖を翻してさっさと席を立とうとした。あまりのことに一瞬固まっていた公達もハッとして追いすがった。
「仙蔵殿、お待ち下され!」
仙蔵は渋々といった様子を隠そうとせず踵を返し、再び腰を下ろした。やはりこの程度では諦めないか。
「我々は仙蔵殿を是非とも側仕えに迎えたく参上した次第で」
「では、これから私が言う物を一番先に持ってきて頂いた方に仕えることに致しましょう」
仙蔵は、一の皇子にはこの世の何より固いという仏の御石の鉢、二の皇子には枝に宝玉がなるという蓬莱の玉の枝、右大臣には決して燃えぬ火鼠の皮絹、大納言には龍の首の玉、中納言には燕が巣に持つという子安貝を持ってくるように頼んだ。五人は仙蔵の余りにぶっ飛んだ要求に呆れた。誰もが無謀だと思ったが、互いに見栄を張り、決して無理だと言わなかった。かくして五人の公達はそれぞれの宝物を探しに、西へ東へと散っていったのであった。



しかしながら、結局只の一人も仙蔵の望んだ宝物を持ってくることはできなかった。一の皇子は、その辺の寺社から拝借してきた古めかしい鉢を仏の御石の鉢だと言った。しかし仙蔵は、本物ならば絶対に割れないはずだと言い、思い切り石鉢を地面に叩きつけた。カーン、と清々しい音がして石鉢も皇子のハートも真っ二つに割れた。二の皇子は技官に作らせた蓬莱の玉の枝で仙蔵を騙そうとしたが、技官が皇子を請求書を片手に追いかけてきたことで嘘が露呈した。真面目に努力した後の三人も、右大臣は悪徳商人に偽物を掴まされ、大納言は龍を探しに航海に出て暴風雨に遭い宝物探しを諦め、中納言は燕の巣を覗こうと登った梯子から転落し、その時の怪我が元で亡くなってしまうという散々な結果だった。中納言の訃報を聞いて仙蔵は少しだけ哀れに思った。



「立花仙蔵か…」
朝廷の名だたる貴公子を巻き込んでの騒動もあり、仙蔵の評判は帝である文次郎の耳にも入るようになっていた。
「気になりますか?」
頭の中将の田村三木ヱ門が尋ねた。武芸に秀で、色事に殆ど興味を示さない(おかげで政略結婚の妃しか後宮にいない)文次郎様が、傾城級と評される美青年に興味を持つのは意外だった。
「そうだな。あの色好みを五人も追い返した根性に興味が湧いた」
やはり着目点は少しずれているようだ。
「では、竹取の翁に連絡を取って内密に彼の屋敷の近くへ狩りに行きましょう。偶然立ち寄った風を装えば仙蔵殿にも会いやすいかと思います」


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