Fly In The Sky! | ナノ

02


「ほら、大人しく何か選びなさい」
「や、でも……」
「おねーさんが奢っちゃるから」

所変わって、私達は今ファミレスにいます。
本当は寝たかったけど、これは夢だなんだと言い、帰り方がわからないと私に縋る子を無視するわけにゃいかない。
 
彼――向日岳人が言うには、最近よく同じ夢を見るらしかった。というのも、私達が出会ったあの道で、私をひたすら追いかける夢だという。いつもは私に追いつく前に夢が覚めるが、今回は意地で私に追いついた、と。そして、いざ追いついてみたら、夢じゃなかった、起きれなくなった、と……。

「あは、訳わかんねー」

思わずへらっと笑うと、向かいに座る向日君は「俺だって訳わかんねーし」と小さい体を更に小さくした。
ふっと息を吐き、目を細める。

「……夢だと思って散々子どもっぽいだとか残念だとか名前がないだとか言われた私の方が訳わかんねーってば」
「……それはごめん」
「あはー」

まぁ思い返したらおもしろい話だよね。他人の本心が聞けてよかったよ。

「ま、そんなことよりさ」

笑っていた顔を引き締めると、向日君も縮めていた背筋を伸ばした。真面目な空気の出来上がりだ。それを見届けて、私は口を開く。

「食べましょーや!」

目の前のパフェをひっ掴み、アイスと生クリームの山にスプーンをぶっ刺す。向日君が「へっ?」と間抜けな顔をした。

「なんて顔してんのさ少年」

スライスされたバナナと生クリームを口に放り込みながら聞く。「君も食べなよ」と促すと、彼も、彼の目の前に置かれたパフェにおずおずと手を出した。

「……いや……もっと事情聴取されんのかと……」
「おっ難しー言葉知ってんのねー感心感心」

でもね、と続ける。

「腹が減っては戦は出来ぬ!ならぬ、腹が減っては事情聴取出来ぬ、ってね」
「結局するのかよ事情聴取……」
「まあまあ、このパフェはカツ丼代わりってことで、ね!」

まあ私が食べたかったのもあるんだけどね。誰かと会ったときぐらいじゃないとファミレスなんか寄れないし。
始めはちまちま食べていた向日君も、段々この空気に慣れてきたのか、大口を開けてアイスを食べるようになった。
それを眺めながら、彼はどこから来たのかを考えた。
普通に考えるなら近所に住む子、なんだろうけど。この辺の道は知らないっぽいし、ファミレスに着くまでにすごくキョロキョロしてたし、ファミレスに着くなり「俺んちの近所にあるチェーン店と名前似てんじゃん、訴えられねえのかな」「内装まで似てる!」「メニューもかよ!」などと独り言(かなりデカかった)を言っていたので、この辺の子じゃないんだろうなあ。でも、お金も持たずに、こんな朝っぱらから、どこから来れるんだろう。
まさかパラレルワールドから来たとか。……まさかね。

「ん? 大守さん?」

あれこれ考えていると、向日君に不振がられた。多分、すごい変な顔してたんだろうな。
パフェの最後の一口を食べながら「大守さんはー寝不足ー」と笑って返すと、向日君の目が私の横に置いてあるコンビニの袋に行った。

「バイト……だっけ?」
「そー夜勤ちゃんだよ夜勤ちゃん」
「……大守さん何歳なんだ?」
「ぴっちぴちのババアだよ」

ちょっと不服そうな向日君に「あは」と笑いかけると、「変な奴」と笑われた。うんうん、やっぱ若い子は笑ってる方が可愛いね。

「……さてと」

スプーンをグラスに突っ込み、頬杖をつく。向日君はそんな私を見て食べるのを止めた。再び、真面目な空気が出来上がる。


「そろそろ本題に入りましょかね。ああ、もちろん食べながらでいいよ向日君」




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