Fly In The Sky! | ナノ

11


やってきたのは大きなショッピングモール。自転車置き場に自転車を置き、俺達は店内へと進行した。
大守さんオススメだという店は予想してたより高値のものが多くて、俺は次々とあてがわれるおしゃれな服にただ首を振って拒絶しては「試着だけ! 試着だけ!」と興奮気味の大守さんに試着室に押し込まれるという行為を何度も繰り返した。その度に大守さんは知らない間に会計を済ませていて、俺はただ上質な紙袋を抱き抱えるしかできなかった。

結局たくさんの服と靴を買ってしまった俺達は、対極的な表情で出口へと向かう。
俺が出くわす店のロゴを見る度に顔をしかめているのに気が付き、大守さんが首を傾げた。

「うん?」
「……いや……、やっぱ俺の世界と違うなってよ……」
「…………」

改めてきょろきょろと辺りを見回す。どれもこれも、俺の世界にもあるようなないような店ばっかりで、ちょっと気持ち悪くなった。今俺が息をしているこの世界が俺の世界とはチガウんだと思うと、言いようのない不安と酔ったような気分を増長させた。
すれ違う人間は皆、俺にとっては異世界人だ。それはもちろん、隣を歩く大守さんも例外じゃあない。けどその皆からすると、俺こそが異世界人だ。俺にとってこの広い世界全部が異質だけど、この世界にとっては俺ただ一人が異物なのだと知らしめられた。

「……大守さん?」

急に黙り込んだ大守さんを不思議に思って顔をのぞき込むと、ひどく苦しそうな顔で俺を見つめた。大守さんは俺と同じ表情をしていた。
弾かれたように前を向き、「そういやさぁ」と話題を無理矢理変える。そうでもしないと、泣いてしまいそうだった。大守さんが俺を撫でようとするような気配がしたが、上げかけた手を途中で止め、かわりに自分の頬をかいていた。

「……向日君」

遠慮がちに発されたその声は、異物な俺にはそうなるはずがないのに、耳によく馴染んだ気がした。

「私は君のお姉ちゃんになりたい」

ぽそりと呟かれた言葉はまた悪ふざけかと思ったが、大守さんの目を見てそうじゃないとすぐに理解した。

「この世界のお姉ちゃん。駄目?」

すごく辛そうで苦しそうな顔が俺を見た。そうなるべきは俺なのに、大守さんは俺以上に辛そうだった。頭のどこかで、彼女をそうさせてはいけないという意識が働いた。
何拍かの間の後、にやっとして「婆ちゃんじゃねーのかよ」と言うと、彼女は一瞬安堵した様子を見せて「言ったなこんにゃろ」と俺を小突いた。大守さんが笑ったから、俺も笑った。
俺に馴染まない景色の中で、大守さんだけが俺に馴染んだような気がした。


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この世界で唯一独りぼっちな彼。


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