Fly In The Sky! | ナノ

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紗世氏後頭部膝蹴り事件の後、昼食までに時間が空いた私達は仲良くワイドショーを見ていた。
ある事に気が付いた私は、ふむ、と改めて向日君の服装を見る。
彼の装備は、Tシャツに短パン。それだけだ。

「向日君向日君、昼飯食べた後お洋服買いに行こうぜ」

言うと、テレビをぼんやりと見ていた向日君が「はぁ?」と振り向いた。そんな彼に私はピースサインを作り「とりあえず動きやすい服とおしゃれな服各二着ずつね」と言った。ちょきちょき動かしてみせると、更に怪訝な顔を見せる向日君。

「あ、お金のことなら気にしないで、安いとこで買うから」
「……いや、つってもよぉ……」

値段以前の問題で、いつまでここにいるかわからないのに買い与えられるのが嫌なんだろう。しかし、しかしだ。

「……君ねぇ、ここにいる間ずっとその格好でいるつもり? 服も着替えないような輩と私を住ませる気かい?」

う、と向日君は言葉を詰まらせた。
冬に部屋着として着るならまだしも今は暖かい時期であるし、何よりこの子、めちゃくちゃ外に出たそう。テニスしたいって叫んでたの聞いちゃったし。そうなったら汗もかくし着替えは必要になる。
それに、なにより。

「なにより君みたいな可愛いコがずっとそんな初期装備みたいな格好しちゃダメ! 勿体無い!」
「初期装備って……」

確かにシンプルだけどよ、と服を摘む向日君。「つか可愛いって言うな」とご立腹だがそんな姿も可愛らしい。
こう見えて私は服が好きだし、向日君なら大抵の服は似合いそうだから、実際問題私が彼を着せ替え人形のごとくコーディネートしたいだけなのだが。

「ね、買いに行こ! 悪いようにはしないからさ!」
「お、おう……」

私の気迫に圧されたのか、しばらく視線をさまよわせた後、向日君は「よろしくお願いします」と小さく頭を下げた。




 

「いんやぁーチャリ一台しかないの忘れてたわぁすまんね」
「くっ……だから! 俺! 走るって!」
「やーよそんなことしたら虐めてるみたいじゃん」
「今の方が辛ぇ!」

というわけで只今向日君と二人乗り中です。私が漕ぐって言ったら「任せろ!」と言われたので任せたらこの有り様である。だから私が漕ぐって言ったのに。

「私結構重いんだよーやっぱ代わろっか?」
「くそくそっ…いや、軽い! 大守さん、羽みてーに軽い、ぜ!」
「あはー、そんな息切らしながら言われても」

ぐいぐいと揺れながら自転車を漕ぐ向日君の肩をポンポン叩き、「帰りは代わるからね」と言うと、ホッとしたように息を吐いた。
全く素直な奴だ。

荷台に手をおくと鉄臭くなるから向日君の細い腰に腕を回すと、「うっ!?」の声とともに速度が一気に落ちた。
全くウブな奴だ。



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