09
「なんっだよコイツめっちゃ寝相悪ぃ!!」
大守さんが寝ると言って布団に潜り込んで10分が経った頃、ふとテレビから視線を大守さんに移した俺の一言目である。
なんだコイツまじで寝相悪い。思わずコイツとか言っちゃうくらいには悪い。
「なんで寝て10分で頭と足が上下逆さまになってんだよ……」
掛け布団はめちゃくちゃ、枕は大守さんの腰の下、おまけにシーツが足に絡んでる。
どんな寝相だ。俺も大概寝相悪いけど、こんなに悪くない。こりゃ確かに、普通のサイズのベッドじゃ落ちるわな。
しかも、なんかもう笑えるくらいに腹が見えてる。腹チラどころの騒ぎじゃねえ。
このままだと風邪引いちまいそうだったから、「仕方ねーな」と呟き、掛け布団をかけてやる。
すると。
「いってぇ!!」
フォン、と空を裂く音がしたと思ったら、俺の後頭部に勢いよく何かがぶつかった。
ガツンと鳴る音。ぐわんぐわんと揺れる頭。反動でベッドに突っ伏す俺。
頭をさすりながら涙目で振り向くと、そこには体制を変えようと動く大守さんの左足があった。
お前か。俺の後頭部を殴ったのはその左膝か。
じとりと膝と大守さんを睨むが、ぐっすり眠っているため、当然ながら効果はなかった。
なんか急にこの人と暮らしていく自信がなくなった。まぁだからって出ていってもアテなんかないんだけど。
スヤスヤと穏やかに眠る大守さんのほっぺたをつつくと、かなり俊敏な動きでその手を払われた。
この人、起きてるときより寝てるときの方が動き速いな。
「ふあぁー……」
それから一時間が経った頃、大守さんが目を覚ました。
「あ? もう起きたのか?」
テレビから目線を外して聞くと、大守さんは「まあね」と目をこすりながら起き上がった。
「私短く深く眠るタイプだから」
それに一応バイト先でも寝てたし、とベッドメイキングする。その手際の良さから、このベッドの荒れ具合には慣れてるんだろうなと思った。
「つーか大守さん寝相悪すぎ」
言いながら先程の惨状を思い出し、思わず顔をしかめると、大守さんは照れたように笑った。
「あはー、お恥ずかしい」
「俺、膝蹴り食らったんだけど」
言うと「まじで? 大丈夫? 骨折れてない?」と本気で心配された。
大守さん曰わく、昔は隣で寝る母親の首にラリアットしたり鼻に裏拳かましたりと被害が大きかったらしい。
さぁ、タンコブくらいじゃね? と後頭部をさすりながら言うと、ほっとしたような顔で微笑まれた。いやタンコブも大概だぞ。
ともかく、俺は今後一切寝ている大守さんには近付かないでおこうと思った。
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bkm
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