彼と私の人形奇譚 | ナノ

かくかくしかじか


「そう……そんなことが……」

事の経緯を話すと、鳳君は大きな体を申し訳なさそうに小さくした。わら人形と宍戸さんの体がリンクしていると知らずに、人形を握りしめたり足を引っ張ってみたり落としたりした罪悪感を感じているのだろう。

「いやいや、私こそが罪悪感を感じるべきで鳳君がそんな顔する必要ないからね!」

もともと、私が呪う相手と宍戸さんの髪をわら人形に入れ間違えたのが発端なのだから、そうとは知らなかった鳳君が小さくなる必要なんて無い。むしろわら人形を拾ってくれたことに感謝するべきなのだ。

「そうだぜ長太郎。コイツなんか、俺を引き留めるために人形の足捻り上げて俺を転かしたことあるしな」
「え……?」
「わーわーわー! それは言っちゃダメです宍戸さん! 鳳君からの信用がなくなるじゃないですか!」
「まずわら人形が関わった時点でもう駄目だろ」
「嘘!」

そ、そうなの……? あの誰にでも優しくて誰にでも笑顔を向けてくれる鳳君とはもう駄目なの……? 今日初めて話したばっかなのにもう信用なくなったの……? と眉をハの字に垂らして鳳君を見つめると「そんなことないよ」と苦笑いされた。
なにそれ気を使わせてるの!?
ガタタンと窓に背をぶつけながら後ずさると宍戸さんに大笑いされた。冗談らしいです。
コホン、とわざとらしく咳払いをし、鳳君に向き直る。事情を知られたからには、彼には注意しておかねばならない。

「というわけで鳳君。お願いなんだけど、このことは……」
「わかってるよ、二人のためにも内緒にする」

私達はほっと胸をなで下ろした。彼が宍戸さんに不都合なことはしないとはわかっていたが、それでも本人の口から「内緒にする」と聞けて安心したのだ。やっぱり鳳君は良い人だ。

「そういえば一つ聞いて良い?」
「いいよ、なんでも聞いて」こんな良い人にならなんでも答えられそうだ、と安請け合いする。しかし、次に彼の口から出た言葉は、私が今まで避けて通ってきたものだった。

「加賀谷さんは誰を呪おうとしたの?」
「…………」
「ちょ、長太郎……」

なんつーストレートな奴なんだ、と宍戸さんが頭を抱えた。宍戸さんにでさえ誰を呪おうとしたか言っていないのに、鳳君に言うのもいかがなものだろうか。
宍戸さんの様子を見て何かを察したらしい鳳君があわあわと私に弁解した。

「あ、いや、ごめんね、言いたくないよね、ごめん」
「……いや、いいよ、教える」

いいのかよ、と宍戸さんが眉をひそめた。「お前の立場的に言って大丈夫なのかよ」の意ではなく、「俺には言わなかったくせに長太郎にはいいのかよ」の意なのだろうと申し訳なく思った。

「二人も私の都合に巻き込んじゃったらもう言うしかないでしょ……」

ふっと苦笑いする。本当は言いたくないけど、言ってやろうじゃないか。
固唾を飲む二人に、私は手招きをする。もちろん他人に聞かれたくないからだ。二人は指示通りにすいっと体をこちらに寄せ、耳を傾ける。
小さな声で、ほとんど息だけで、私は言う。

「私が呪いたかったのは……、」
「俺……やろ?」

背後からの声が、私の言葉を遮り被せて言った。
思わず「げ、」と喉から女子らしからぬ声が絞り出る。宍戸さんと鳳君は、私の後ろに立つその人物を見て呆然としていた。出来るなら一生会いたくなかったそいつを振り返り、私は腹の底から、憎しみだけを込めてその名前を呼んだ。

「……忍足、侑士……!」




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bkm