なんだかなぁ



貴女があまりに浮かない顔をするから。
貴女があまりに辛そうな顔をするから。
貴女があまりに無理に笑顔を作るから。



「冥ちゃんだ」

ひと月程会っていなかった友人が、いるはずもない場所で私の名前を呼んでいる。
いるはずもないのだから、もちろん驚いた。自分が作り出してしまった幻なのではないか、と。
駆け寄ってきた彼女は少し息を整えると、ひさしぶりと言って笑った。

「どうして貴女が?」
「さっきの裁判、見てたの」
「……そう」
「冥ちゃんかっこよかった。冥ちゃんが法廷に立ってるところ、私見たことなかったから、今日はすごい、嬉しかった」

ぎゅっと服の裾をつかんで俯き気味で話す彼女の表情は言葉の通りではなく、曇っていて。
いち、に、さん。みっつ数えて彼女は笑顔。

「ちょっとお話したいな。冥ちゃんまだ忙しい?」

自分を偽るのが下手なくせに、いつもそうやって。だから目で追っていたのかもしれない。
自分に彼女のような妹がいたら、何かにつけて世話を焼いてしまうのではないか。
そんなことを思いながら二人、裁判所を後にした。




「……なまえも元気そうで安心したわ。最近はどうしてるの?」

カプチーノの入ったカップの縁を指でなでる。
彼女はミルクティーを頼んでいたらしく、ふぅふぅと口を尖らせて冷ましていた。
顔を上げて何かを考えた後、頭を軽く振って

「えっと、元気にしてたよ」

また寂しそうに笑った。

「それは良かった。ほとんどノーヒントみたいだけど」
「あ、ごめん。でも本当に元気にしてたっていうか、いつも通りっていうか……」
「私に会えなくて寂しかったかしら?」

ぴたり。
時間が止まったよう。

「冥ちゃん」

カプチーノは、残り半分。濁った泡。
カップを包むようにしている彼女の手は、白い。

「私冥ちゃんのこと好きなんだ」
「それは嬉しいわね」
「好きすぎて」

おかしくなりそう。

今日の天気を告げるように、そう言った。今日の天気は、曇り。
目に見える彼女の姿が小さくなっていくよう。

「非生産的な恋愛って、どうなんだろ」
「どうかしら」
「なんだかなぁ」

私の知っている彼女の笑顔。
冷ましたミルクティーを流し込む彼女を見つめながら、カプチーノに口を付ける。

「私はなまえのこと、好きよ」
「え」
「おかしいかしら」
「いえ」

無言、そしてくすくすと笑う。二人の笑い声が重なって心地良い。

「あーあ」



なんだかなぁ


(どうしようか)

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