そんな愛
「もうだめかもしれません私は駄目かもしれません馬堂さん私はもう」
「……少し落ち着け」
馬堂さんの呆れ果てた声音に、私の泣きごとはぴたりと止まった。
いい年してぴぃぴぃ泣いている私につきあってくれる馬堂さんって本当は、本当に、優しい人なんだ。
それでも私の置かれた状況は全く良くはならない。当たり前だ。
「お給料、これ以上下げられたら、私、私」
「今は……狩魔検事の下で働いているのか」
「ええ、そうなんです。狩魔検事の為にせっせと、この身を削って働かせていただいてます、けど」
腫れぼったい目の周りに指を当てると冷たくて気持ちが良い。
指の隙間から覗いた馬堂さんの表情は、よくわからない。
瞼をゆっくりと閉じる。
何をしても空回る自分が嫌で、慎重になればなるほどタイミングを逃して、結局それすらも空回る。狩魔検事が私のことを嫌ってお給料を減らしてるわけではないということは、わかる。わかるから、悔しくて、でも。
「……馬堂さん?」
「お前が……そんなに生活に困っているのなら……」
「え、あ、いや、そういうんじゃないんです」
この人は私がお金がなくて困ってると思っていたのか。
馬堂さんが小さく首を傾げたのを見て笑い声を上げてしまった。
だって、あの馬堂さんが。あの馬堂さんが首を傾げて。
「笑うな」
「す、すみません」
「いや……笑ってろ」
「えぇ!?すみません!」
もういいと言わんばかりの溜息を吐く馬堂さんに、馬堂さんにまで見捨てられてしまうのではないかと、不安に駆られた私はとっさに大声で謝った。馬堂さんの大きな手が私の頭の上でぽんぽんと音を立てて、何をされているのか理解するのには時間がかかった。なでられている。馬堂さんに。
「なまえの努力を見抜けないようなヤツでは、ないはずだ」
「馬堂、さん」
「……飴を買う金くらいなら貸してやる」
「ありがとうござい、ます」
上がらない顔は、泣いた時と同じくらい、熱くて。嬉しさとちょっぴりむず痒さと、頭の上の馬堂さんの手の重さと
そんな愛
(不器用だけど支えてくれるんです)
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