地に足つけて



「ああああああ師父ウウウゥゥゥゥウワアアアアア」
「喧しい!」


私、ななナナシは、師父の大きな手で無造作に首根っこひっつかまれて改札口を通り抜けなう。
超トイレ行きたい超帰りたいあばばばば


「まじ師父まじ勘弁してください師父まじまじ師父」
「新幹線に乗るくらいで情けねェこと言うな」
「ウワアアアアア」


師父達に顔色の悪さを指差して笑われても、別にそれは、どうでもいい。
ただ、新幹線という恐るべき乗り物に乗らなければならない理由がわからない。わからない。わからない。

そう、私は新幹線が苦手も苦手、大の苦手なのであります。

けれど抵抗虚しく、師父に引きずられてホームに到着、ちょうどやってきた新幹線(久しぶりに近くで見たらすごくかっこいいくやしい)に放り込まれた。
よりにもよって窓側に座らされた私は、シートベルトを探して頭を椅子下に突っ込んだりしていた。


「師父、師父、席かえませんか、こうかんしませんか」
「悪ィな。今ベストポジションにリクライニングさせたところだ」
「それくらいいいじゃないですかこうかんしましょうよこうかんああああもう動くうわあああああ」
「手握っててやるから黙ってろ」
「無理っす」


そういいながらも動き始めた新幹線の中で、師父の手をぎゅっと握りしめた。


「うわっ!汗ひっでぇな!」
「師父のばかぁ」
「ファーに拭うな!」


急いで師父の手を握り直して目を瞑る。
足の裏とか背中とかがそわそわして心臓が忙しく鳴った。楽しいことを考えようと思ったけれど驚くほど思いつかない。
ここは心を無にするしかない。心を閉ざす!私は今無表情の戦士!


「ヘンな顔」
「ひどいですでも今はそれどころじゃないのでゆるします」
「おい、ナナシ。外見てみろよ」
「無理っす」
「見ろって」


師父に無理やり顔を窓の方に向けられ、ほっぺがひきつる。
小学校の朝会で校長先生を見るときのように薄く目を開ける。


「あ、桜」
「綺麗だろ?」
「……きれいですけど」


なんで師父が得意気なんですか。
ほっぺをむにむにとひっぱる師父の手をぎゅっと掴んで


「……師父」
「ん?」
「こわいもんはこわいんで花見はやっぱり」



地に足つけて


(新幹線から見る意味がわからんです)
(ほら、もう着いた)

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