素直でよろしい




ピヨピヨッ ピヨピヨッ ピヨピヨッ


なんでひよこの声がするんだ。
目が、痛い。重い。ゆっくりと開ける。
音のする方には、私の携帯電話。どうやらアラームの音だったらしい。


「朝……あー、朝……」
「……ナナシ、さむい」
「あ、ごめん」


布団をぐいぐい引っ張られたので私もすっぽりともぐった。
アラームが鳴ったということは、7時か。
今日は1日ごろごろしていられるけれど、


「ソウタ、今日は?」
「夜に……ある……」
「あ、そ」


ソウタはお仕事らしい。
横を向けばじっと目をとじたままのその顔があった。きれいな顔だなぁ、と思ってじっと見ていたら


「……な」
「金とるよ」


キスをされた。
恥ずかしいのと悔しいのでソウタをにらみつけると、ふにゃりと笑ってまた目をとじた。


「っていうかナナシはオレにキスされるのイヤなの?」
「はぁ?」
「あ、嬉しいのか」
「……起きるよ。なんかパンとかあるんでしょ」


私の腕を掴んでいた手を払いのけて立ち上がり、冷蔵庫の前まで足をひきずるようにして歩いた。
何か飲もうと扉に手をかけると「ないよ」とこもった声が聞こえてきた。


「なんか言ったー?」
「パンとか、ないって」
「なんでだよ」
「ごはんなら冷凍庫に入ってる」


私、朝はパン派なんですけど。
冷凍されたごはんを食べる気にもならず、水道水を一杯飲んで、またベッドに戻った。


「おかえり」
「私パン派なん」
「知ってる」


ほっぺにソウタの手がそえられて、肩が震えた。


「文句言うなら泊まらなきゃいいのに」
「それは、」


ソウタがかえしてくれないから、なんて言えなくて。
嬉しそうに私を見下ろすソウタの顔をまっすぐ見られなくて、ソウタの胸に、ぼすりと音を立てて顔を埋めた。



素直でよろしい


(きみにはかなわないんだって)

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