きっともっと




スキップ気味に廊下を渡り、その勢いのまま小銭を自動販売機に突っ込んで、大好きなミルクティーのボタンを押した。
がこん。
1日に一本、私の楽しみが自動販売機の下の方から


「……ない」


出てこない。
取り出し口に手を突っ込んで左右に振ってみても、何も、ない。
頭を突っ込むようにして中を覗いてみても、何も、ない。


「うわああああん!」
「……ななさん、何してるッスか」
「うわああああ!?」


振り向いたらイトノコさんが哀れみを含んだ視線を向けていた。
やめて!イトノコさんなんかにそんな目で見られたくない!


「今すごく失礼なこと考えて」
「ません。イトノコさん小銭ありますか」
「ねッス」
「ですよね」
「小銭なくしたッスか?みみっちいことしてるッスねぇ……」


違うって言いながら立ち上がったら、笑いながら頭をぽんぽん撫でられた。
まぁ、お金入れたのに商品が出てこなかったのだから、なくしたといっても語弊はないのだけれど。


「あーあ。楽しみにしてたのになぁ……」
「冷たい水ならそこの角のアレで飲めるッスよ」
「楽しみに!してたって!言ってるじゃ!ないですか!」


しかもアレ、水出そうとしたら加減無しに出てきて顔面びしょ濡れになったからもう使いたくないのに。
そう説明しようとしたけれどイトノコさんにその現場を目撃されていたことを思い出したので、むぐぐと口をつぐんだ。


「イトノコさんがミルクティー買ってくれればすむ話ですー」
「なんでそうなるッスか。のど飴ならあるッスよ」
「いらない。ミルクティーください」
「……仕方ないッス」


ごそごそとポケットからミスプリントの束を取り出して、ぺらぺらとめくるイトノコさん。


「……お給料が入ったらおごってあげるッス」
「はぁ、ミルクティーですか」
「それまで、ほら!のど飴ッス」


ぎゅっと手に握らされたミントのど飴は、私がデスクに入れている物と同じ味のものだったけれど。



きっともっと


(おいしいんだろうななんておもってなんかないんだから)

[ 18/20 ]

[*prev] [next#]
[もくじ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -