フツウ




こんな時間でも響也が起きてること、知ってる。
私から響也に声をかけることなんてなかった。
だけど電話を、した。
ベッドに寝転がりながら、携帯電話でぽちぽち。呼び出し音。


「オレだよオレオレ」
『ナナシ、お金でも必要なのかな?』
「そうそう1時間以内に今から言う口座に20万振り込んでよ」
『20万でいいの?』
「……じゃあ、100万」


電話の向こうから、喉を鳴らして笑う響也の声が聞こえた。
こんなに、近くで。
ああ、心地よい。


『どうしたの』
「別に。仕事の邪魔してやろうと思って」
『そっか』


じゃら。
寝返りをうったら携帯電話に付けたストラップが小さく音をたてた。響也みたいな、音。


「響也って私のこと好き?」
『……うん、好きだよ』
「なんで?」
『聞きたい?』
「別に」
『どうして好きか、どこが好きか、言葉にするのは簡単さ。ただ、ナナシはわかってくれないだろうね』


いくらならべてもキミはキミじしんをゆるさないだろうから。
低い音が私の胸のあたりをぎゅっと締め付けた。
ゆっくりとまばたきをして、私達は携帯電話を挟んで息をした。


「しあわせになりたい」
『してあげたい』
「だがことわる」
『そっか』


くすくす笑うけれど、私達はほんとのことしか言わない。
嘘は、言わないだけ。黙って、消す。殺す。さようなら。
お互いが違う生き物で、お互いがお互いを想うのはどこへ行ったって自分のためで。


「響也のことすきかもしれない」
『すきでいて』
「わからない」


安全地帯はまだしばらく安全地帯。
バッテリーが、悲鳴を、あげる。

「なんでもない」
『なんでもなくないことくらいわかる』
「なんにもできない」
『素直になりなよ』
「馬鹿馬鹿しい」


愛だの恋だの所詮は幻想だという。
おやすみだけはっきりと口にして、携帯電話の背から四角い命みたいな物を取り出して壁に投げつけた。


目を閉じて、響也の携帯電話の番号をコールした。


「もしもしさよならしようか」



不通


(きっとそれがこたえだけどわたしはまだいえないでいる)

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