メイプルシロップ




焼きたてのトーストの香りが部屋に広がる。朝の匂いだ。
窓の外は絵に書いたような青空が広がっている。
いつもと変わらない、いい朝だ。


「……いやいやいやいや」
「どうかなさいましたか」
「どうかなさいましたよ」
「さようでございますか」
「さようでございますよ」


人生で一番大きく息を吐いた。
目の前の紳士ぶった殺し屋はトーストにマーガリンを塗りはじめた。

「なーんでうちでパンかじってるんすか」
「ご心配頂かなくとも、時間になれば仕事をさせていただきますので」
「わ、やめてよそういうジョーク。っていうかイチゴジャム似合わなすぎ」

そうですか?とイチゴジャムの瓶を置いて隣のメイプルシロップに手を伸ばした。
私のトーストの上はまっさら。

「コロシヤさんいつ出ていくの?」
「出ていくときは貴女がいないときなので知っても仕方がないかと……どうぞ」
「ありがと。でもコロシヤさん出ていく気ないでしょ」

受け取ったメイプルシロップでトーストの上にハートを描いた。傾けたらぐしゃぐしゃになった。
指先に少しだけついたそれを舐める。甘い。

「ナナシ様が邪魔になれば出ていきますし、なな様が契約を破れば」

消さざるを得ないでしょう、という言葉はコーヒーの湯気の中に消えていった。

「なんだ、じゃあ私どうしようもないじゃない」
「嫌われたら出ていきますよ」
「なにそれ」

口に含んだトーストの端をゆっくりと飲み込む。ココアも流し込む。
ああ、甘ったるい。

「コロシヤさーん」
「なんでしょう」
「このままじゃだめかなぁ」
「どうでしょう」
「あー……私コロシヤさんのそういうとこ好きだわ」

さくさく、二人の音が軽く響いた。



メイプルシロップ


(ころせるわけないじゃありませんか)

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