いちにのさんで




事務所のソファに寝転がる姿を見て溜め息を吐く。愛しい彼女を甘やかした結果がこれである。
いや、いくら甘やかしたからといってもこんなはしたない格好をしていいものだろうか、いや、いいわけがない。ああ、そんな短いスカートで

「オジサンのこと誘ってるのかな?」
「は?なにいってんの。ジンジャーエール」
「はいはい」

何の脈絡もない。
手に持った携帯ゲーム機から少しも目を離さない彼女はすっぱりと言い捨てた。
しばらく、指しか動かさない彼女を見ていたけれど、また「ジンジャーエール」と言われたのでこちらもまた「はいはい」と踵を返す。

「ナナシちゃーん」
「なに」

彼女が持ってきて置いていったグラスにジンジャーエールを注いで、こぼさないようにゆっくりと歩く。
(いっそ彼女の携帯ゲーム機から頭まで全部にぶちまけてしまおうか)

「オジサンこれから外に出なくちゃいけないんだよね」
「じゃあフレカ拾ってきて」
「あれ、狩りしてたんじゃないんだ」
「あ、持たせたら私できないじゃん」
「ジンジャーエールこぼすよ」
「私も行く」

仕方ないし、とプラスした。手の上に少しはねた水滴を、ぺろりと舐めた彼女と目が合った。逸らされた。

「ナナシちゃんってさ」
「なに」
「ツンデレ?」
「人のこと言えるの?」
「え?オジサンはいつもナナシちゃんにデレデレだよ」
「うそつき」

グラスの中身を飲み干して乱暴にテーブルに置くと、ソファの足元に置いてあった赤いバッグに携帯ゲーム機を突っ込んだ。

「嘘なんかついてないさ」
「うそだもん」

ソファから立ち上がって聞こえるか聞こえないかの大きさの声で言った。
なんだこの可愛い生き物は。

「わかったオジサンはうそつきだ。だからうそじゃなくしよう」



いちにのさんで


(ぼくはぶきようなきみをだきしめた)

[ 10/20 ]

[*prev] [next#]
[もくじ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -