愛すでしょう




「すみませーん、かき氷のいちごひとつくださーい」

人通りの少ない公園でアイス売りの真似ごとをしていたときでした。
そんなのんきな声を聞いて、少し、困りました。
なんといったって、私がしているのはアイス売りの真似ごと。
かき氷はないのです。
丁寧に謝罪をし、以下のメニューからお選びいただけますか、とラミネート加工されたメニューを指さしました。

「あー、かき氷はないのかー」
「ええ」
「コロシヤさん」
「……」
「あれ、違う?」
「少し、お話をしましょうか」
「あれ、殺される?」
「いいえ、お話をしましょう」

大人にしては少し幼いその女性を連れて少し歩いてベンチに向かいました。
手にはもうアイスもありません。
少し、指を動かします。

「私とお会いしたことが?」
「父さんがお世話になってる人でしょ?コロシヤさん」

ななの娘です、と頭を下げる彼女を見ながら、最近の仕事を思い出しました。

「なな様の……そうですか……」
「まぁ、父さんがコロシヤさんにお世話になってるってことは知ってたけど、私の前で仕事するとは思わなかったよ」
「前、で?」
「あ、違う。後ろだ後ろ。後ろ向いてるうちに殺したでしょ、私の婚約者」
「……」

彼女が私のことを怨んでいる様子はありませんでした。
いえ、あるようには見えませんでした。

「ああ、だいじょうぶ。すきじゃなかったし」
「そうでしたか」
「でも見ちゃったからなー。コロシヤさんのこと。あ、この人がコロシヤさんだ、って思ったんだけどすぐいなくなっちゃったからさぁ」
「なな様」
「あ、ナナシって呼んでよ。父さんと一緒じゃわかんなくなるでしょ?」

確認するように私は小さく、しかしはっきりと「ナナシ様」と口にしました。

「私も殺すの?」
「……何故貴女を」
「だって父さんとの契約なんちゃらーになるんじゃないの?あ、そしたら殺されるの父さんだったりする?」

ピンと立てた人差し指を私の方に向けて彼女は言いました。

「なな様を殺すことは、ありませんよ」
「あ、じゃあやっぱり」
「殺しません」
「なんだ。ちょっぴり覚悟してたのに」

大きく息を吐いた彼女はベンチの背もたれに勢いよく凭れかかり、伸びをしました。
それを見ていた私は思わず質問をしてしまいました。
自分が殺される覚悟か、父親が殺される覚悟か。
質問はさらりと却下されました。
しつこく訊くことはしませんでした。

「でもどうせなら父さんを殺してよ」
「殺しません」
「私コロシヤさんのこと好きだし」
「……」
「父さんはね、私のこと大好きだったの。だから父さんがいなくなったらその分私のこと好きになってよ」
「言っている意味が」
「だってコロシヤさんが今売ってるのは人の命じゃなくて」



アイスでしょう


(おもわずこえをあげてわらった)

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