ねぇねぇ




「ゆみひこ」

私の可愛い彼はちょっとおばかです。いや、ちょっとおばかで可愛いのかな?
ゆみひこったら、さっきからソファの隅で、ひとりでぶつぶつ呪文みたいな言葉を繰り返してる。

「ゆみひこ、そんなに悔しかったの?」
「そ、そんなんじゃない!」

早口言葉言ってみて、ってふったら、二文字目で噛んじゃったんだもんね!
ああ、ゆみひこ、可愛いなぁ。

「早口言葉苦手なゆみひこもだいすきだよ?」
「う……なんだよ、いきなり」
「照れてる?」
「照れてない!」

ゆみひこのふわふわな髪の毛を撫でると、睨み付けられた上に怒鳴られて。
それでも撫でる私の手から逃げる素振りを見せないから、黙って撫でて。

「ナナシ」
「なあに?」
「……コドモ扱いすんなよ」
「だってコドモじゃない」

そう言ったら、ゆみひこを撫でてた腕をつかまれて

「コドモじゃねーよ!」

コドモみたいにわめくから、かわいくてかわいくて、つかまれていない方の手でまた撫でて



まばたきをしたら、視界がぐるりと回って(実際は回るほど動いてはいなかったのだけれど)ゆみひこが私のことを見下ろしていた。

「ゆみひこ」
「……」
「それからそれから?」
「……ナナシ」

ごくり。
見つめあっていた私たち、先に目をそらしたのはもちろん、ゆみひこ。
ソファから身体を起こしたゆみひこはまた私に背を向けるの。
急に押し倒されたから腰が痛いの!

「ほら、」
「うるさい」
「何もできないじゃない」
「うるさいうるさい」
「ゆみひこは、ガキだねぇ」
「うるさいうるさいうるさい」

真っ赤になった耳に唇を寄せると、おまけみたいに「うるさい」って聞こえてきた。
ゆみひこがかわいくて、つい、いじめたくなるの。
(ゆみひこにかまってもらいたいコドモは私の方なのにね!)
仕方がないから私はゆみひこにこう言うの。



ねぇねぇ



ゆみひこの肩の上にぴんと伸ばして置いた人差し指がゆみひこのほっぺをつつくのよ!



(そこでてをださないゆみひこがオトナってことわたししってるの)

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