うるさいばか



べこべこに凹んだアルミ缶が弧を描いてゴミ箱へ吸い込まれていったのを見送った。
いつもならガッツポーズのひとつでもしたくなるけれど、今日はそれすらも腹が立つ。
まるで私のご機嫌を取ろうとしているのではないかという、ひねくれた考えに至ってしまうのだ。
私が構って欲しいのはアルミ缶、お前じゃないんだよ。
食べ終わったチョコレート菓子の箱もゴミ箱に向かって投げてみたけれどさすがにそれは入らなかった。
入らなかったら入らなかったで馬鹿にされているような気がして腹が立つ。

「あー、もう!」
「うるさいですよ、ナナシ」
「『あー、もう!』しか言ってないじゃないですか!」

やれやれ、といった風に肩を竦める霧人先生に、ポケットに入っていたキャラメルを投げつけた。霧人先生にぶつかったキャラメルは軽い音をさせて床に落ちた。

「やけにイライラしているようですね」
「別に」
「反抗期の娘ですか」
「そんなんじゃないですってば」
「ああ、生理ですか」
「違いますよ先生馬鹿ですか馬鹿なんですか」
「そうですね。失礼。あと1週間ほど先でしたね」

訴えますよ、と言ったら「その際は是非我が事務所をお尋ねください」とか言われた。とてつもなく腹が立ったのでポケットに入っていたソフトキャンディーを投げつけた。霧人先生にぶつかったソフトキャンディーは軽い音をさせて床に落ちた。

「食べ物を粗末にするともったいないおばけが出ますよ」
「出ませんよっていうかなんですかそのおばけ」
「ナナシは怖がりですからね」
「怖がりじゃありません」
「都市伝説スレ読んだら一人でトイレに行けなくなったのに?」
「なんで知ってるんですか気持ち悪い」
「貴女のブログに書いてありましたよ」
「気持ち悪いです」

ポケットにはもうお菓子は入っていない。
ああ、後であの人の足元に落ちているお菓子を回収しなくちゃ。
別にもったいないおばけがこわいわけじゃない……多分。

「さて」

霧人先生が(霧人先生に当たってしまってかわいそうな)キャラメルとソフトキャンディを拾った。(ああ、かわいそう!)
先生はペンを机の引き出しにしまって、こっちに歩いてきた。

「我儘なお姫様は何をご所望でいらっしゃいますか」
「その言い回し、気持ち悪いです。弟さんの真似ですか?」
「響也が真似ているんでしょう」

だめだこの兄弟。
揃いも揃ってきれいな見た目してるくせに

「そんな目で見ないで」



がりっ。
唇を、噛まれた。


「いっ」
「ディナーにはまだ早い時間なのに、食べたくなってしまう」
「なんで噛んだの!?意味分かんない!」
「構って欲しかったのでしょう?」

右手を包みこまれたと思ったら、てのひらの上にはキャラメルとソフトキャンディーが乗っていた。

「オコサマは、お菓子でも食べて待っていなさい」
「意味分かんな」
「あと少しで終わりますから、おいしそうなナナシで待っているんですよ」



うるさいばか


(だったらさっさとおわらせてよばか!)
(あまりばかばかいっていると、ほんとうに)

[ 4/20 ]

[*prev] [next#]
[もくじ]



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -