The Hyperactive Kid

 アリアンスは嘗て初めての雪遊びで高熱を出した。雪はスワロー島で暮らしていたことのある四人にとっては珍しくもないものだったが、温暖なマリンフォードで育ったアリアンスにとってはほとんど未知のものだった。甲板で無駄に高い身体能力を駆使して壮絶な雪合戦をしてクルー全員を疲れ果てさせた挙句、自身は慣れない気温と積雪地での経験不足で最終的に風邪で高熱を出してローの怒りを買ったことは当時のメンバーは誰も忘れないだろう。特にローはアリアンスの猛攻撃の被害を一番喰らって疲弊した体で看病をしたのだ。その怒りも必然である。青筋を浮かべ、アリアンス以外のクルーの前でも不機嫌を取り繕うともせずにいたことは、そのときのメンバー誰もが忘れない。
 ただ、何処か大人びた雰囲気のあるアリアンスが遊びに夢中になるのは他のクルーにとっては意外なことで、ローの怒りがやや鎮まった頃に、ペンギンたちはお見舞いがてら尋ねたのだ。雪遊びはしたことはないのか、と。
「雪遊び、というか、そもそも友達とあんまり遊んだことがないからかな」
 この船で一番短気な上に一番怒らせてはいけない人間を怒らせた張本人は呑気に船長室でそう答えた。




 そこは夏島だった。買い出しに行っていたアリアンスとベポが買い出しにしては妙に早く帰ってきた。二人で買い出しに行けば買い食いなどしてくて早くても昼は過ぎるのに関わらず、まだ午前中である。朝食後、ローは何も言わずに自室に戻ったので、シャチとペンギンが留守番であり、このとき船にはクルー全員が揃った。
「何買ってきたんだ、アリアンス」
「水鉄砲」
 大きな箱の中から水鉄砲を取り出す笑顔の眩しいハートの海賊団の誇る戦闘員を前に、ペンギンとシャチは嫌な予感しかしなかった。ハートの海賊団一の戦闘員は、剣士としては当然のこと、狙撃手としても優秀だ。意気揚々とライフル式大型水鉄砲に海水詰めている姿を見て、何の危機感も感じないほど、ペンギンとシャチも馬鹿ではない。
 頼むからキャプテン一日寝倒しておいてくれ、と思ったが、現実はそう上手くもいかない。ベポは水に濡れたら大変だからね、と気遣うアリアンスが、最も水に浸けてはいけない男を巻き込まないはずがないのだ。ただ、そんなベポも興味津々でわいわいとなってしまったのがいけなかったのか。
 ローが、ハートの海賊団一の着火剤が、マッチを持ってはしゃぐ火遊び大好き人間の目の前に姿を現してしまったのだ。確かに部屋にいるには勿体ない天気だった。
 ピシャリと景気の良い音がした。



 ベポのはしゃぎ声で目が覚め、甲板の日差しに目を細めた瞬間、ローは何が起こったのか一瞬わからなかった。
「水も滴る良い男だね」
 寝不足と寝起きで機嫌が最下層をいくローに向かって海水を充填したライフル式の大型水鉄砲を容赦なく浴びせたアリアンスが笑う。それで、一気に眠気が吹き飛び、機嫌が急降下し、地盤を突き抜けて落ちていったローは能力を展開させる。
 アリアンスはライフル式の大型水鉄砲を持ったまま海の中に飛び込んだ。
 水底に何か仕掛けたのか、というローの予想は裏切られなかった。アリアンスは水底から飛び出し、そのままローの頭上まで飛び出すと、手に持っていたバケツをぶちゃまける。流水とはいえども量が量なので、一瞬ROOMは解除される。そのまま、唖然としてしまったローを目掛けて浅瀬に向かって飛び蹴りをかます。能力を使ってきたということは覇気も使ってもいいということだというのがアリアンスの解釈なのだろう。武装色の覇気をふんだんに込めた足はローを海の中に突き落とすにはじゅうぶんだった。
「おい、アリアンス」
 腰ほどの浅瀬であってもローの力は落ちる。
「てめぇくらいの実力のやつで試したかったオペがある」
 怒りのあまりにその口元に笑みが浮かぶのがわかった。海に落ちた帽子を回収することなく、何色ともつかないその眼を冷たく燃やす。凶悪な死の外科医。帽子ないと童顔なんだよなあ、なんて言うクルーはハートの海賊団でも目の前の一人だけだ。帽子は後で回収すればいい。息の根を止めるのが先だ。
「追いつけるものなら追いついてみなよ」
 ローはルームを展開したが、アリアンスが潜水したため、正確な位置が掴めなかった。正確な位置を掴めていても苦戦するアリアンスの覇気を相手にするには、水中は分が悪すぎる。誰だ、この馬鹿に覇気教えたのは、とローは思ったが、アリアンスに覇気を教えた人間もマリンフォードの元帥が持て余すような馬鹿なのである意味仕方がない。
 さらにその三年ほど後、その馬鹿の孫に振り回されることになることはそのときのローは知らない。
 そんなDの意志などローは要らない。
 冷え切った目に笑みを浮かべ、ブチギレ状態のローをシャチとペンギンは唖然として見ていた。
「シャチ、ペンギン、あそこの浮標まで泳ぎで勝負しようよ」
「おい、シャチ、ペンギン。あいつ引っ捕らえて来い。生死は問わねぇ」
 そのとき、ハートの海賊団で、賞金首「ポートガス・B・アリアンス DEAD OR ALIVE」が爆誕した。ちなみにBは馬鹿のBである。因みに海軍はポートガス・D・アリアンスに億越えの賞金をかけているので、それなりの報酬がなければわりにあわないが、仕方はない。
「アイアイ、キャプテン」
 とりあえず返事はしたものの、シャチとペンギンは名前のわりに泳ぎはとりわけ得意というわけではない。スワロー島で泳げる時期はごく僅かであるので、それは仕方がない。
 温暖な気候で育った上に、身体能力も抜群に高いアリアンスに勝てるはずがない。
 ローはなんとか甲板まで移動し、ベポからタオルを渡されて海水を拭き取り、帽子も回収した。当然、帽子も水浸しだ。
「キャプテン、アリアンス、楽しそうだな。泳ぎも上手い」
 アリアンス関連のトラブル回避率が最も高いベポは呑気に言う。最近、アリアンスはよく笑う。笑み自体は最初から薄らと浮かべていたが、自然と笑顔が出てくるようになったのは最近のことだった。
「だが、下手くそだな」
 ただ、遊びについては。手加減も知らない。卑怯な手も平気で使う。アリアンスは遊ぶのが下手だ。同世代と遊んだことがなく、年上の人間としか遊んでもらったことしかないのだ。
「キャプテン、何が?」
「今回は許してやるから、ちゃんと体を拭いて冷えないうちに帰ってくるように言ってやれ。熱出されると面倒くせぇ」
 アリアンスは、シャチとペンギン相手に引けを取らないどころか圧倒的に引き離して、二人の泳ぐ様を見ていた。あの顔一杯の大きな笑顔を浮かべて。


「あの人も海賊だったのかな」
「小さいときに南の海で、私を看病してくれたよく笑う変なおじさん」
「俺は北の海の人間だ。知るはずないだろう」


 あの笑顔に絆されたわけではない、と自分に言い聞かせながら、ローは甲板に座り込んだ。二十歳もこえた同い年の子どもの相手は疲れる。ローは数年前の雪合戦を思い出す。最早、あの馬鹿は理不尽の権化である。
 その後、ローの忠告も聞かず日が暮れて水温が下がるまではしゃいでいたアリアンスはやはり熱を出し、アリアンスは当然のこと監督不行で他のクルーもお咎めを喰らった。
 しかし、全員が思った。キャプテンが止められないアリアンスを止められるとお思いですか、と。
 熱が下がり、ローから様々な能力の人体実験をされ、晴れて甲板に出ることを許されたアリアンスは、離れていく夏島に向かって呟いた。
「また行きたいなあ、夏島」
 ペンギンとシャチに頭を叩かれたのは言うまでもない。

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