窓際の席に彼はいた。外を眺めているかのように、教室に背を向け、のっぺりと机に横たえた腕の上に頭をのせている。
「ねえ、大丈夫」
顔をあげる。うっすらとまぶたが開く。暗い双眸が私に向けられる。人を見ているとは思えない生気のない目だった。顔は青白く、血の気もなければ表情もない。その唇はゆるやかに閉じられたまま、わずかな動きさえも見せない。
人懐っこくて、ころりころりと表情が変わるお人好し。付き合い始めるまでの彼の印象はそうだった。
だらりとぶら下がっていた長い腕が動いた。速くも遅くもなく、ただ気配もなく静かに動いた。
無防備に机の上に置いていた手は、簡単に包み込まれてしまう。かさかさに乾燥していて、大きな手だ。爪はきれいに切り揃えられているが、私のそれよりもずっと分厚くて硬い。指の狭間に差し込まれた爪はまるで石のようだった。
ただ、本当に無防備なのは、これほどまでに表情を消した彼自身だ。そんなことはわかっていた。
唇がわずかに動いた。
「眠い」
地を這うような低い声だった。誰もいない教室ではよく響いた。息を呑む。何かをされるわけでもないのに、いつになっても慣れなかった。
口の中が乾いていく。
「帰ろうよ」
肘をつく。頬がひしゃげる。表情は何一つ変わらない。
「あいつら、上手くやっているかなあ」
暗い表情が少しだけ明るくなる。私の手を包み込む手が少しだけ熱くなった気がした。夕焼けが赤い。眩しいのか眼を細目ながら、夕日を背景にした体育館に目をやっていた。その横顔は先輩のものなのだろう。
無防備な表情
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