小噺置場。突然消えたり増えたり。パロディなど散乱の無法地帯。明記無しは全て炭治郎。
春 新生活、桜、出会いの季節─
この季節が今年もやってきたか、と溜息を吐き出した。
某パン会社によって行われ、毎年この時期になると開催されるパン祭り。外装袋に貼られている桜型を模したピンクのシールを専用台紙1枚分、つまり25点集めると、引き換えに白いお皿が一枚貰えるという人気のキャンペーンである。おそらく日本人なら誰でも耳したことがあるだろう。
竈門ベーカリーの常連である彼女が毎年この時期になると、お皿欲しさにピタリとパンを買いに来なくなるのだから、彼女と幼馴染でもある俺は至極面白くない。
「竈門ベーカリーのパンは、市販のパンと違って添加物だって入っていないし、それに栄養面だって考えられてるんだよ」
「私も竈門ベーカリーのパンが世界で一番大好きなの」
『じゃあ、』と続ける前に俺の声は彼女の声によって遮られる。
「でも…!今年のお皿は白いフラワーボールなの!映えアイテムなの!それに、これは毎年続けている戦いなの!いくら大好きな竈門ベーカリーを天秤にかけたとしても譲れないの!」
負けた、今年も某パン会社の策略に─
キラキラしたシール、プロフィール帳、着せ替えゲームが出来るカード。彼女に収集癖がある事は、小さい頃からずっと彼女の隣にいた俺には痛いほど分かっている。彼女は自分で決めた事は何があっても貫くのだ。早く今年の戦いも終わらないか、と何の意味もなく俺は空を見上げた。
▽
「やっぱり竈門ベーカリーのメロンパンが世界で一番美味しい〜!」
頬が落ちるくらい美味しい≠ニいう表現は彼女がうちのパンを美味しそうに頬張っている時の事を表現する為に生まれたとさえ錯覚してしまうくらいだった。彼女は無事に25点を集め、『炭治郎!今年も貰えたよ!』と嬉々として、無事に手に入れた白いお皿を携えて俺の元へと報告に来たのが3日前。
「炭治郎、清々しそうな顔してどうしたんだよ」
彼女がパンを食べる姿を自分の席で頬杖を付きながら満足そうに見る俺の姿を見て、不思議な顔をした善逸が話し掛ける。
「今年の俺の戦いが終わったからかな」
「変な炭治郎だな」
忌々しいパン祭り、来年こそは勝利してみせるからな、と心に誓った俺だった。
5月31日(日)
「お姉さん、ちくわパンお好きなんですか?」
駅前にある竈門ベーカリーでトレーに乗せたパンを持ってレジへと足を運ぶと、カウンターでレジ操作をしている男の子に声を掛けられる。着ているコックコートから考えるに中の厨房の人なのだろう。ちくわパンとはちくわを丸々一本使っているパンで中にツナサラダが入っている惣菜パンのことである。他のパン屋では見かけない珍種パンであり、試しに買ってみたところ、これが驚く事に美味しくって今では私のお気に入りなのだ。
「俺が好きで店に出すようにしたんですけど、あんまり人気じゃないみたいで…」
「そんなことないです、すごくおいしいです!」
「よかったぁ」
私が弁明すると、ホッと安心したように男の子は胸を撫で下ろす。
「またお姉さんの為に、ちくわパン焼きますね」
お昼休憩になり職場で今朝買ったパンを食べようとビニール袋を開くと、買った覚えの無いパンがひとつ多く入っていた。きっと、あの男の子がオマケしてくれたんたろう。明日も竈門ベーカリーに行こうと決めて、午後の仕事も頑張ろうと思った。
5月31日(日)
ぼくのかぞくをしょうかいします。
ねずこちゃんは、ぼくのおとうさんのいもうとです。おとうさんのいもうとのことは、おばさんというみたいだけど、ぼくは、ねずこちゃんとよんでいます。ねずこちゃんは、いつもぼくとあそんでくれます。
ぜんいつは、ぼくのおとうさんのともだちで、ねずこちゃんとけっこんしています。ぼくがねずこちゃんとあそんでいると、いつもじゃまをしてくるので、なかよくさんにんであそびます。
おやぶんはいのししのかわをかぶっています。ほんとのなまえはいのすけだと、おとうさんがおしえてくれました。だけど、おやぶんからおやぶんってよべっていわれたので、ぼくはそうよんでいます。ぼくに、つやつやのどんぐりをくれます。
ぼくのおとうさんは、わるいおにとたたかって、おにをたおしました。おとうさんはすみやきをしていて、まちにすみをうりにいきます。ぼくががっこうをおやすみのひは、すみをうりにいくのに、いっしょにぼくをつれていってくれます。ぼくのあかいめは、おとうさんといっしょです。おかあさんは、ぼくのおめめがすきだといいます。
ぼくはおかあさんのことがだいすきです。おかあさんとけっこんするとおとうさんにいったら、おかあさんはもう、おとうさんとけっこんしているから、ぼくはけっこんできないんだよといわれました。ざんねんだけど、おかあさんもおとうさんがだいすきなので、おかあさんもおとうさんもしあわせならぼくもうれしいなあとおもいます。
ぼくはみんながだいすきです。ぼくのゆめは、つよくてやさしいヒーローになることです。だいすきなかぞくのみんなをまもってあげようとおもいます。
「炭治郎さん、お帰りなさい」
机に頬を付けたまま、眠っている我が子を抱えて布団へと運ぶ。大方、書き終えて寝てしまったのだろう。タイトルにはぼくのかぞく≠ニ書かれた作文が机に転がっていた。
「学校の宿題なんですって」
くすりと彼女は笑うと、隣ですやすやと寝息を立てて眠る小さな命へと視線を移し、愛おしそうにその頭を撫でる。俺も彼女に倣って自身の手の平をその上に重ねた。
「私、今すごく幸せなんです」
たまらなく愛おしくなって、俺は彼女へと唇を落とした。
5月30日(土)
KAMABOKO ─今をときめく男性アイドルグループで、メンバーは炭治郎、善逸、伊之助の3人で構成される。
液晶の中で3人は先週リリースされた新曲のONI☆TAIJI≠歌っている。
「はぁ〜、カッコいいなぁ〜」
「サボってないでさっさと仕事しろ!」
閑古鳥が鳴いている喫茶店のテーブルを拭く手を止めて、カウンター前にあるテレビが映し出す歌番組へと夢中になっていた私を制する声がする。『マスター、だってお客さん誰も来ないじゃないですか』なんて呟くと、更に頭には拳が落とされた。『俺はちょっと出てくるから、店番頼んだぞ』と店長、もといマスターは出掛けてしまった。
善逸も伊之助もカッコいいけど、やっぱりリーダーの炭治郎だよなぁ、と再びテレビに釘付けになっていると、カランカランと扉が音を立て開く。いらっしゃいませ、と反射的に声を掛けようとしたが、帽子にマスクという見るからに不審な格好をした男の人が酷い息切れをして店の中へと入ってきた。ここまで走ってきたのだろう、息苦しいのか、帽子とマスクを取ると、露わになった端正な顔立ちと赤い髪の毛を見て私は驚愕した。
「た、炭治郎…!」
たった今、テレビの中で歌っているアイドルが目の前に現れたではないか。特徴的な額の痣と赤い髪の毛が彼が本物の炭治郎である事を物語っている。
「ごめんね、ちょっと匿ってくれませんか?」
店の外ではアイドルの彼が街中にいる事に気が付いたのであろう女の子達の声がする。
私はゆっくりと目の前の人物へと頷き返した。マスターごめんなさい、今日はお店は閉店します。
5月29日(金)
日柱様は、鬼殺隊最強である柱の称号を持ち、眉目秀麗で人当たりも良く最近では縁談話が後を絶たない。優しい日柱様は困ったな、と口には出すものの無碍には出来ないと
頭を抱えていた。
「日柱様、いっそ私たち結婚してみては?」
訳あってこの日柱邸の給仕として住み込み雇っていただいている私は言い放つ。
「私は住み込みで働いている身ですし、結婚してしまえば日柱様の縁談話も無くなり、より鬼殺隊の任務に専念出来るというものです。ただ、実際に結婚する訳ではなく、所謂契約結婚という形です」
一息で言い切ると、いつも細められている優しい目は大きく開いて私を凝視する。
「駄目だ!契約結婚なんてそんなもの!」
「じょ、冗談です…」
やってしまった、今日で給仕の仕事も終わりだ。羞恥で消えてしまいたくなった私はその場を去ろうと立ち上がったところで強く手首を掴まれた。途端に燃えるような瞳に捉えられる。
「契約結婚なんかじゃなくて、俺と本物の夫婦になろう」
*逃げ恥パロ/日柱if
5月29日(金)
奇妙な鬼の血鬼術で何故か猫に姿を変えられてしまった俺はなんとか蝶屋敷へとやって来た。蟲柱であるしのぶさんなら何か元に戻る方法を知っているのでは、と思ったからだ。屋敷の敷居を跨ぎ中を歩き回っていると、同じく屋敷で療養中の彼女に見つかってしまう。
「にゃあ!にゃあにゃあ!!(俺だよ!)」
『キミ、額の痣が炭治郎みたいだねぇ〜』そう言って猫の姿の脇の下へと両手を差し込んで抱き上げた。
「にゃ!にゃにゃにゃー!(そう!炭治郎だよ!)」
「うんうん、お腹が空いてるんだね!」
そう言って彼女は隊服のポケットからどら焼きを俺の目の前へと差し出す。
「に゛ゃ゛!にゃにゃにゃ!(違う!そうじゃなくて!)」
空腹な訳ではない事を理解した彼女は、猫である俺を見て少し眉を下げる。
「わかった!キミ、手足が土で汚れてるから綺麗になりたいんだよね!」
さも納得した表情でポンと手を打つと、『はいはい、一緒にお風呂に入ろうねぇ』と俺を胸に抱えて屋敷の奥へと進んで行く。
だ、駄目だ!風呂は駄目だ!!腕の中で必死に抵抗してみるが、相手は女の子でも、猫と人間の差は明らかであるし、どれだけ叫んでも言葉にならずに彼女の耳へとは届かない。
あっという間に脱衣所に連れてこられると、俺の上へと何かが降ってきて途端に視界が真っ暗になる。驚いて布のようなものから前足を動かして這い出ると、俺の視界を遮った正体は彼女が身に付けていた黒い鬼殺隊の隊服だった。逃げなければ、と思った時にはもう遅く裸の彼女に抱えられ浴室へと連行される。それからはもう散々だった。女体を見るのは初めてだった。理性と本能との間で葛藤させられ、俺も男である事を改めて思い知らされる。そんな俺の気持ちなんて知る筈も無く、彼女は呑気に鼻唄なんて歌っていた。
▽
「あっ!炭治郎!久しぶり!元気だった?」
「あっ、う、うん……」
あれから数日後、猫の姿から人間へと無事に戻った俺は彼女の姿を直視する事ができなかった。
5月27日(水)
「たんじろうくんのおめめは赤いね」
「鬼さんみたいだからぼくはあんまりすきじゃないなぁ」
すると彼女は首を傾げてこう言った。
「だって赤色はヒーローの色でしょう?」
懐かしい夢を見た。あの時、彼女が褒めてくれたから、人とは違う自分のこの赤色の目も好きだと思うようになった。俺の隣で規則正しい寝息を立ててまだ夢の中にいる彼女の頭を撫でる。夜明けまで一刻ほど早いから、君の隣でもうひと寝入りしてしまおうか。
5月27日(水)
無惨を倒した俺は左手と右眼を失った。
肘から下はしわしわで動かす事さえ出来ない俺の左手はもう二度と彼女の頭を撫でてやる事も出来ないし、俺の右眼は彼女の笑った顔を映す事は永遠に無い。
「何言ってるの馬鹿炭治郎、生きてさえいてくれればそれでいいのよ」
そう言って彼女はその大きな瞳から大粒の涙を流して目一杯の力で俺を抱き締めた。
5月27日(水)
「おやおや、お嬢さん。そんなに元気の無い顔をしてどうかしたのですか?」
「炭治郎さん、シズさんが今度良い人と結婚して女学校を退学なさるというのです」
「それは御祝い事ではないですか、何故そんなに元気が無いのです?」
「皆さん結婚してしまわれて、このままでは私ひとりが売れ残って、ついには
卒業面
(
そつぎょうづら
)
と呼ばれてしまいます」
彼女への幾つもの良い縁談話を。俺が無理を言って旦那さんに頼み阻止しているという事をお嬢さんは知らない。俺はお嬢さんの小さくて柔らかい清らかな手を取った。
「もし良い人が現れなければ、俺がお嬢さんを娶りましょう。」
*卒業面=「在学中に縁談が来ることはなく、間違い無く卒業できる顔」と同時の女学生の間では言われていた。
5月26日(火)
任務が終わった俺の足は自然とある場所へと向かっていた。まだ街の人達が寝静まっている夜明け過ぎ、“あじさい食堂”と掲げられた一軒の店を見つけると、鍵が掛けられた格子戸を背中にして地面へと胡座をかく。お昼時からの営業である為、もちろん太陽が昇ったばかりである今は営業時間外である。すると物音に気付いたのか奥の住居棟で寝ていたと思わせる薄い寝巻き姿の彼女が内側から扉を開けると「あら、炭治郎さん。どうぞ」と言って俺をまだ開店していないお店のカウンター席へと招き入れた。白い割烹着に腕を通し、包丁でまな板を叩く規則正しい音が聞こえる。くんくんと鼻を鳴らすと鰹と昆布の良い匂いが空腹を刺激する。「お待たせしました」と、塩むすびと温かい味噌汁を乗せた盆が目の前に出された。
「鬼殺隊さんは大変ですね」
夜明け過ぎに吸い込まれるかのように毎回この店へと迷い込んでくる俺を、いつも彼女は懲りもせずに招き入れては、こうしてカウンターに座らせて食事を与えてくれるのだ。この店の御品書には決して載っていない俺だけの特別メニューを食べてお腹が満たされると同時に優越感にも満たされる朝を俺は今日も繰り返す。
5月26日(火)
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