星詩いの闇夜。


森の奥の奥。

鳥の鳴き声は日溜まりを作り

花の香りは唄となる。

精霊の歌は緑陽を光らせ

星の瞬きは詩となる。

そこにひとつ家が在った。大きな、大きな家が。

花が住み、星が住み。

いつの間にかその場所は花星荘と呼ばれるようになっていた。

花に守られ、星に守られ。

そして代わりに花を守り、星を守って彼女たちは生きている。







「…………“星欠片”…」

ぱたん、と木製造りの扉を閉めて夢は小石程度の落とし物を拾った。

屈む際に腰元まである長い漆黒の髪を艶やかに揺らし、自ら呟いた“星欠片”なるそれをそうっと手のひらに乗せる。

夢の言う“星欠片”は水のようで星のような彩りを持ち、光が粒となり空へと零れていっていた。

きらきらと、さらさらと。

砂時計が硝子を星いっぱいにしてしまうかのようなリズムで。

「………ねーね…」

それを見ていた夢の服を引いたのは小さな小さな赤子。真っ白い髪に橙が織られた赤い瞳の女の子。

さながら月を思わせる女の子、奏は今にも泣きそうな顔で夢の隻眼を見上げる。片方…右目だけで夢は可愛い可愛い愛し子を映した。

まだ言葉足らずで、舌ったらずで、言いたいことを言葉に出しては言えない赤子だが、伝えたいことなら夢にはわかる。わからないで保護者はやっていられない。

左側を奏が、そしてもうひとりの小さな子が夢の手の中を心配そうに見ていた。金春色の瞳に哀しさが投じられて波紋が泳ぐ。

水晶のように清らかな声音が子ども特有の素直さに浸かる。

「ままさま……大丈夫、だろうか……?」

「大丈夫ですよ、姫夢ちゃん。見てください、かなちゃん姫夢ちゃん」

夢に良く似た女の子、黒髪の中に蒼を光らせた長い髪の幼子は金春色の瞳を素直に夢の手の中へ注ぐ。

奏もはらはらと大きな瞳に涙をいっぱいに潤わせてぐすぐすと見ていた。

あまりにも優しい幼子ふたりは夢の自慢でもある。血は繋がっていなくとも家族であると胸を張って言える。

さらりさらり……と静かに、確実に光を空へ零している“星欠片”を夢は両手でそうっと包んだ。

“星欠片”は一部の精霊の命。

その為その精霊の名を“想詩の精霊”と呼ばれる。

「大丈夫です。かなちゃん、姫夢ちゃん」

その由縁は想われることで生るから。

想われるかわりに、想えることから。

「少しだけ頑張り過ぎたんでしょう。星月の蜜を花にたくさん運ぼうとしてくれたんですね」

星詩いが詩うことで、綻びを繕えるから。

夢がすぅ……と口を開く。

包んだ“星欠片”が夢の手から溢れるほどに淡い光を集めはじめた。




おいでなさい、いらっしゃい

懸命な子。空の愛し子。

その手はただひとつだけ
その手を望むものを知っている?

おいでなさい、いらっしゃい

懸命な子。星の愛し子。

月の雨蜜。掬いなさい。
掬った雨蜜。注ぎなさい。

おいでなさい、いらっしゃい。

懸命な子。尊の愛し子。

その手は、あなた以外には握れないーーーーー





ふぅ……とさ迷うように泳いでいた光が帰る家を見つけたかのように夢の手の中に在る星欠片へ集う。
 
す、と仄かに笑んで夢は包んでいた両手に綻びを作る。綻びから星欠片も光を迎えに行くように浮いた。

帰ってきて
帰ってきて

今いくよ
忘れてないよ


起きて

起きて


起きるよ

起きるよ



さわわわ……と夜砂が天に川を充たすような愛らしい会話。





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