螢を産めていない世界があるかもしれない。
『この姿』の自分ではない世界があるかもしれない。
螢と共に在れていない世界があるかもしれない。
何の根拠もなく、酔狂なことではあるが、けれどどこかにそんな世界が在る気がして―――むしろ、この世界でだけ、こうして平穏に、当たり前のように一緒に居れるのではないか、と不安定なところでそう感じてしまうことが多々あった。
刹那に消えてしまいそうな、しかし確かにある光だから『螢』と名付けた。
愛しい子どもをそうっと抱きしめて、白髪の彼女は一秒一秒に、愛しさと感謝を乗せて、居間まで歩いた。
若草色の彼女
「あ、おばあちゃんと螢ちゃん来ましたよ」
金色の彼
「冷えっ冷えの冷やし中華出来てるよ?」
白髪の彼女
「ほぅ……これは美味しそうだ。なぁ、螢?」
螢
「はい我が母………あっ!赤っ!我が母の隣に座るのは許さぬっ」
赤い彼
「………はいはい」
―了―
- 7 -
[*前] | [次#]
ページ: