「………………。…………あ。ご飯作らなきゃ」
「なんだ?ストレスか?」
「あはは、そんなのないよ?」
「…………やれやれ」
ちったあ自覚しなさいよ。と呆れながら笑う赤い彼を見る。
その瞳は業火、却火、紅蓮に烈火。それらを幾重にも巻き付け纏っているような気配で、どこかしらに愁の色が伺える。ここにいるものは少なからず誰にでもその色があるのだが。
自分以外の住人にはストレスなるものを抱えているのはわかる。どっかりと隣に座った赤い彼然り。
ただそれらが自分に存在するとは到底思えない。
純白な母子のようにささやかに潤水ではない。
赤い彼のように切望を焦がしたわけでもない。
若草色のように茎のような固さを伸ばしているわけでもない。
ただ、途切れぬように。
なのに気怠い。
砂のように乾いて
重たい砂にはきっとなれない
のに、
何かが、ある。
「…………あー……」
こつん、と壁に頭をぶつけてみる。とことん加減して。頭が割れるほど強くぶつけたい衝動に駆られるが……そんなことをしたらこの家が崩れてしまいかねない。
「お料理作りたい」
「……程々にな、花浜匙」
……妙なことを言う。
隣にいる赤い彼が花なんてものに興味があるだなんと到底思えない。
ふぅ……と息を吐いて片手間にぱらりと……なんだか分厚い本を捲る。今呟いた「花」が何らかの比喩であることは金色の彼にだってわかる。
ただ花に疎い自分がその言葉の意味を知るためには教えてもらうか自ら調べるしか方法はない。
調べるつもりなど毛頭ないから、金色の彼がその意味を知ることは偶然知るか、誰かに教えてもらうしかないのだ。
うん、とただ頷いて壁から背を離して立ち上がる。
なんの意味だか調べる意思もなく、ただそこにあるだけ。
これに、なんの意味があるのか……考えるだけの意思すら金色の彼にはない。
考えない。ただ不思議に首を捻るだけだ。
「あーっ!金、まだ動いてはならぬのだっ」
ふよりふより、と紫色の瞳の子が戻ってきた。
探し物を見つけたのだろう。しっかりとその手に探し物を握っていた。
考えるだなんて高尚なことはしない。
生きることが尊いことならば、
自分がしてきたこと
自分がしていることは
考えるに及ばない。
「……螢ちゃん、これなに?」
「体温計だ。見てわからぬか」
「はっはっは。金の坊主の様子がおかしかったから持ってきてくれたんだろ。良かったな」
「不本意だが赤もしっかり計るのだ。お熱が出もしたら我が母がお困りになられる」
それは、冒涜に他ならない。
ー了ー
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