螢を見ながら、砂のように少しずつ記憶が視界を奪っていって途切れはしない遠いいつかを映し出す。

忘れてはいけないと、教えられたもの。

音もなくすらりと移り行く昔のこと。

悲鳴。
憎悪。
敵意。
悪意。
嘲り。
畏怖。
鉄錆びの赤。
何かが跳ね飛び、不意に途切れる声や爆発音。
手に残る、閉じた……閉ざした感覚。

砂埃と張り叫んだ世界。唯一の赤い液体は乾いた砂に被さってすぐに潤いも粘りも失った。

視界に留めておかなければと、教わったからそう思った。だから記憶に綴じた。

捲ればいくつもそれは記されている。終わらないページ数。膨大なページ数。

一枚でもそれは破ってはいけないし、なくしてもいけない。

金色の彼にとって、それを抱えて生きていくことは苦ではない。ただ、何でもない。何でもないのだ。

忘れてはいけないと、教えられたから覚えている。それだけのこと。

ただ……ただ少しだけ考えるのはあの時に砂に被された赤い潤いはどんな気分だったかと。

それを、時々ーーーーーー

「……ほぉ?確かに珍しいことが起きてるもんだ」

そりゃあ螢ちゃんも探すわなあ、と視界記憶に小火を起こしたのは赤い彼。

けたけたと軽く笑いながらいつの間にやら隣に胡座をかいていたことに金色の彼は首を傾げた。じゃらりとつけたピアスたちが耳に踊る。

頭がぼんやりとする中で「同意」の相手がいたことに、僅かに抜かれかけた刃を無理矢理に抑える。そうして金色の彼はゆっくりと状況を見ることが出来るようになり、今漸くここは過去の世界ではないと砂から戻る。これを体験したのは一体いつぶりだろうか?

こちらに来てからは……「あの場」を壊してからはこんなことはなかったはずなのに。

砂のように乾いていても、普通に仕事だって出来ていたのに。




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