抱きしめた腕の中にいる我が子がきゅうっ、と首に巻わしてきた幼い両腕が、螢が笑顔なのだろうことを白髪の彼女に伝える。
水色のバレッタで前髪を留めている為、出ている額をこつんと我が子にくっつけ、ぐりぐりと摺り寄せる。
螢もまたとてもとても嬉しそうに紫色の瞳をまぁるく細めて、白髪の彼女を瞳を映した。
「母、我が母」
「む?なんだ螢?」
ころり、とあまぁく愛らしい飴が転がるような声音で、螢は母である白髪の彼女に短くも愛溢るる言霊をくれた。
ぽこりぽこりと、優しい泡玉が水面に浮いてくるような、そんな感覚。
ほわり、と心からしあわせで細められたような笑顔が白髪の彼女を潤した。
「大好きです。我が母」
「……うむ。我も螢が大好きだぞ?」
「我は世界一我が母が大好きです」
ほわんと水面がほんわかした声音で、先程よりも強く、白髪の彼女よりも強く「大好き」を主張した。
それはまるでここではなく、また別の世界の『螢』たちの分まで伝えようとしているような………例えるなら、そんな感じだった。
また白髪の彼女もそのような感覚で、こうして『螢』を産めて『この姿』でこうして抱きしめられるのは、多々ある世界に存在する『自分』の中では―――己だけなのではないかと、そんな妙なことを、どこかでいつも感じている。
伝えて満足したのか、ほわんと満面の笑みを溢れさせると、少しばかり大きな白いパーカーの袖口から出した手が首から胸元に移動し、きゅうっと握りしめた。
それから子猫のようにすりすりと顔を摺り寄せて甘えてくる螢。
ふぅ……と水色の目を柔らかく細めて、自分と同じ色の髪をそうっと撫で梳いた。
さわわわ、と庭の池が風を材料に、砂のように細かな水粒でまぁるく線を描いて流れたのが見えた。
それを遮るように――――さら、と長い若草色の髪が廊下からひょっこりと顔を覗かせた。
ふたりをまぁるい若草色の瞳に映すと、小さく笑って「あらら」と草木のようにさわりと笑む。
「螢ちゃんの安心甘えん坊時間でしたか……お邪魔をしてしまいましたね」
「……全くだ。緑の馬鹿」
「こら螢。そんなことを言ってはならぬ」
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