切り干し大根やら味噌汁、卵焼きと言った朝食の定番が並ぶ食卓。ほわほわ香る味噌汁を白髪の彼女の隣で螢が水色の柄のスプーンで不器用に一生懸命食べていた。
子ども用の椅子に座って、黙々と一生懸命に。
その姿があまりに愛しくて可愛くて、白髪の彼女は小さく、心からの水泡のような笑顔を浮かべ、箸を進めた。
当たり前の普通のことが、こうして訪れるなんて考えもしなかった日が、既に遠くの日のように思える。
けれど過去に犯した罪を忘れてはいけなくて。
「美味しいか?螢」
「はいっ、我が母っ」
この砂糖菓子のように甘い世界の中で、記憶が落とす苦味をしっかりと抱いて、噛み締めて、
今を大事に大事に、今日もここに在る。
そうしてしあわせと罪悪を背中合わせに今日も愛し子と朝を迎える。
―了―
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