「…おはよう、螢…。……まだ螢は眠っていても良いのだぞ…?」
白髪の彼女は敏感に起きた我が子に苦笑しながらそう言った。……そう、まだ眠っていても全然おかしくない時間だ。だってまだ朝の五時だ。五時。
小学生や…大人だって起きるのを渋る時間帯だ。母が起きたからと言って子までつき合う必要はない。寝る子は育つと言うのだし。
しかし螢はふるふると首を三度振って、ほわりと甘く甘く笑った。そしてさも当然のようにこう言った。
「いいえ。我は我が母とおはようをして、我が母とおやすみをするのです」
ずっと我が母と一緒にいるのです、と全く濁りのない輝かんばかりの笑顔で言うものだから白髪の彼女は何も言えなくなる。
「……………そうか…」と我が子にただひとつ頷いて、
親子は起床する。
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自室の襖を開け、窓を開け、螢を抱いて廊下を歩くと居間につく。
その居間を抜けると階段があり、その向かいに浴室がある。
浴室の中にある洗面台で洗顔や歯磨きをするためてこりてこりと歩くと、白髪の彼女は足を止め、階段の上を見上げた。
「……小僧はまた徹夜だな…」
見上げて、ぽつりと呟くは赤い髪の同居人。
確か彼の仕事には期限が迫っている……と聞いた気がする。その為ここ数日間姿を見ていない。
出した食事の皿が空になっている辺りはまだ生きているのだろうが、大丈夫だろうか?と思ってしまうのは自然なことだと思う。
自分の締め切りが済んだから時間的に余裕がある故、様子を見に行こうかなとも思ったが……経験上、集中力を欠かせてもいけないから今は見守るだけにしておこう。
「我が母、我が母」
くいくいくいっ、と腕の中にいる螢が白髪の彼女の寝間着を引っ張った。
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