母である白髪の彼女の袖、腕をそっと借りて、重たそうに、不安定にやっとやっとで螢は立ち上がる。

母のお下がりである薄紫色の肩掛けと、母からもらった水色の結い紐で結んだ、長い長い白い髪をキッチンマットに引きずり、螢はにっこりと笑った。

螢は、足が悪い。

「大丈夫です、我が母」

そしてささやかで、小さな小さな秘密がある。

ほう……と水泡のような空気がぽわりとそよいだ。

同時に螢の体がほわりと“浮いた”。

ふよりふよりとたゆたう水のごとく、立ち上がった時の白髪の彼女の肩辺りまで浮く螢はそのまま宙を移動し、布巾を手に取り、嬉しそうに頬を染める。

「こうすれば、我が母のお手伝いができます」


螢には、ささやかで小さな小さな秘密がある。

足が悪い代わりなのか、螢はある程度の高さだと“浮く”ことが出来る。勿論そのまま移動も出来る。

これに関してもやはり原因は不明で、故に螢が浮くことが出来るのも、極僅かな者しか知らない。




「……しかし螢…。螢の小さな小さな手だと…お皿は落としてしまいそうではないか?」

「あ……!………………だっ、大丈夫です我が母っ!我が母のお手間をかけさせないようにひとつひとつ、しっかりと握って拭きます故っ、お手伝いをさせて下さいっ」

「……そこまでお手伝いをしたい子も珍しいものであるな……」





―了―






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