キッチン付近のフローリングに敷いた灰色のキッチンマットの上で螢はほわんと、紫色の瞳を更に更に水のようにこぽりと丸く和らげた。
とても気持ちの良い返事で「はいっ」と瞳を輝かせる。
「我が母がお皿洗いを始めたので、お手伝いさせて頂こうと思い、お傍へ参りましたっ」
満面の笑顔で、母としてはこの上なく嬉しいことを言ってくれた螢に、白髪の彼女の胸には正直じんわりと感動が広がった。何て可愛いことを言ってくれるんだろうか、と。
一般的に彼女のことを「親ばか」と呼ぶのだが、残念ながら白髪の彼女は全く気付いていない。
ついでに同居人の三人からも言われているのだが、残念ながら白髪の彼女は全く気付いていない。
……しかし、
「身長は椅子でどうにかなるにしても……」
螢の足では、立つのは辛いだろう…と呟くように白髪の彼女は自身の頬に手を添えて口にする。
先程も述べたが、螢は足が悪い。某アルプスアニメの車椅子少女程ではないし、車椅子少女の友人に「馬鹿っ!もう知らないっ!」と言われる程に歩くことを拒んではいないし、「立った……!クラ○が立った……!」と感動を呼ぶ程、螢の歩行は希少なものでもない。
が、一般に比べて足が悪いのはとことん明白だった。
テレビの画面がぱっぱっ、と同居人の手によって変えられる中、螢は得意げに、大丈夫だとまるで母を安心させるように笑った。
共に在るときは笑顔が絶えない我が子のその顔を見て「ああ……」と白髪の彼女は思い出す。
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