菅原中編 | ナノ

酷いことを言ったと、思っていた。自分勝手なことを言ったと、自覚していた。
けれど、それは、彼の言葉を聞いて私が思った本心だった。私たちが別れた理由は、そんな大層なものじゃなかった。たぶん私が菅原のことをすごく好きで、でも菅原は誰にでも優しくてそれがとても不満だった。私にだけ優しくしてくれればいいのにって、そう思って、わざと菅原を困らせるようなことをしていたと思う。菅原は優しいからそんな私を甘やかしてくれていたけど、だんだんそれにも辛くなって私はあまり菅原の前で笑わなくなった。菅原も菅原で厳しい部活と勉強に忙しい日々で、恋愛という感情の疲労の激しいものに疲れていったのだと思う。結局、私たちはお互いの気持ちを上手に渡し合えなくて、菅原が別れを切り出してくれた。

冷静になって思い返してみると、自分勝手にも程がある。別れを切り出させたのは私だったではないか。菅原に嫌な役回りを全て押し付けて、私は被害者面していた。そんな思いを抱えたまま、私は練習を見守って、そしてもう一度夜がきた。謝るチャンスは昨日と同じ時間しかない。話しかけるチャンスを、自販機に隠れて待っていた。
きたのは外部コーチで、その後に菅原がコーチに声をかけた。


「三年生なのに可哀想って思われても、試合に出られるチャンスが増えるならなんでもいい。正セッターじゃなくても出ることは絶対諦めない。そのためによりたくさんのチャンスが欲しい」


聞かなければよかった。
正直そう思った。
私はどこまで彼を苦しめるんだろう。部活なんてしないでぬくぬくと高校生活満喫してる私が、彼に何をしてあげただろう。それなのに、私は彼を苦しめてしかいなかった。私のことで悩ませて、つらい思いをさせて、どうしてあんな酷いことが言えたんだろう。
涙よ、止まって。コーチがこの場を去る前に、早く。


「お前らが勝ち進む為に俺にできることは全てやろう」
「よろしくお願いします!」


菅原が、そんなに強い覚悟をしていた。そんなことも知らずに私はどれだけ菅原に甘えていたのだろうか。菅原、ごめんね、お願い。もう一度だけ、私に、チャンスをください。


「菅原!」
「なまえ?!なっ泣いてるの!?」
「ごめん、菅原、ほんとにごめん」
「え?なんで?謝るの俺だべ?」
「違う、あの時からずっとわがままばかりで、菅原のこと全然考えてなかった。菅原ごめん、ごめんなさい、でも、でも好きなの」
「………」
「好きなのに、菅原に迷惑かけてばっかりで、ごめん、」
「なまえ…ほんと?」
「………うん」
「嘘じゃない?」
「嘘じゃないよ」


泣き崩れた私に確かめるように菅原が訪ねた。顔を上げると眉根をよせて唇を噛みしめていた。


「俺もごめん、俺人に嫌われんのが怖くて、なまえ以外にも優しくって言うかいい顔して、そんなのやだよなぁ」
「……菅原」
「もうなまえ以外に優しくしないから、だから、」
「そんなことしたら、後輩たちに嫌われちゃうよ。私にだけ優しくしなくてもいい、みんなに優しい菅原でいいよ」
「……なまえ」
「でもね、その代わり、私にだけはちょっと強引に、菅原の気持ち、押し付けて」
「………なまえ、それ反則」


腕を引っ張られて菅原の中にすっぽりおさまった。びっくりするくらいあったかくて、また涙が出た。忘れていた。私は優しい彼を好きになったんだ。

私の肩に顔をうずめてぐりぐりと動く。菅原の背中にそっと腕を回してちょっと強くジャージを握る。菅原が私を抱きしめる腕に力を込めた。


「なまえ、好きです。つきあってください」
「菅原、好き。今度は、幸せにするから」
「それ、俺のセリフだべ」


にしし、と花が舞うような笑顔につられてにししとわらう。ちゅ、と軽く唇が触れた。


「オホン!」
「えっ」
「おーお二人さん偶然ー」
「澤村偶然じゃないでしょちょっといつからいたの!?」
「鵜養さん!ってとこ」
「全部どころじゃないじゃねーか!」
「えっ、まって、いま、の、」
「おおおおれはふたりがきききき、してるとこなんて、」
「「アァアァア」」
「おい三年うるせぇぞ!!!」
「忘れて!ほんとに忘れて!!!」
「忘れられない」
「大地〜!」
「大切な友達が幸せになったんだ、二人。忘れられるわけないだろ」
「大地…」
「澤村…抱いて!」
「おいそれはスガの役目だろ」
「そうだよ俺だべ!」
「…………は、はい…」
「なまえ、かわいい!!」
「あっあっ」
「「旭落ち着け」」







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