07
「スクアーロさん何買うんですか?」
「俺はネギと、豚肉と…水菜?だったかぁ。」
「お鍋でもするんですか?」
「おう、よくわかったぁ。」
「まぁそんだけ鍋の材料が羅列されれば…」
「ジャポネーゼはすげぇなぁ。」
「イタリア人もお鍋するんですか?」
「ボスがテレビ見て食べたいって言ってなぁ。」
「ボス?」
「まぁ上司だな。」
ふーん、と微妙な相槌をうったのにスクアーロさんは「そいつが横暴でなぁ」とぽつぽつ語り出した。別に嫌ではないので、スクアーロさんに「この大根も入れたらどうですか?」とか聞きながらスーパーを歩いた。笹川家では鍋に野菜とうどんをぶっこんで煮るのがお鍋なんですよ、と言うとじゃあそれにすると、うどんもカゴに入れた。
「お前は何を買いに来たんだぁ?」
「私はタマゴと牛乳です。」
「フレンチトーストかぁ?」
「そ、そんなオシャレなもの作れませんよ!(卵焼きさえ黒焦げだったのに)」
「簡単だぞぉ、今度教えてやる。」
「へ?」
思いもよらない一言に、余分に買っておこうかと思ったバターが手から落ちた。スクアーロさんもぱっと口を押さえた。
別に変なことじゃない。仲良くなった男女が次の約束をしただけだ。それなのに私たち二人がそれをしようとするのがなんだか滑稽で、でも少しうれしくて、バターを掴み直して「お願いします」と笑った。
スクアーロさんはそのあとかなり大量に豚肉を買っていた。しかもすごく高いのを。スクアーロさん曰く、そのボスさんが「肉にはうるさい」らしい。野菜の量もかなりのものだったし大人数なんだろうか。鍋はもともと大人数用の料理だけど、それにしても多かった。
「じゃあなぁ、色々助かったぜぇ。」
「いーえ!帰りは道に迷わないでくださいね!」
「ゔぉ゙おい!」
あの叫び声は彼の口癖だろうか。少し楽しげだった。時計を見ると午後三時を回っていた。京子に怒られる、とものすごく急いで帰った。
本来なら十五分のところを六分で帰った。息切れで十分休んだのは言うまでもなない。