18
了平が見事初戦に勝利し、幸先が良いと思われたリング争奪戦だったが、雷戦でランボを助けようとしたツナの大空のリングとランボの雷のリングの二つを奪われ、結局のところ負け越しとなった。
関係ない話だが、雷戦の際、黒いレインコートを頭までかぶったスクアーロさんはつまるところ相当かわいらしかった。ついでに言えば、「ハンカチは渇いたのかぁ?」「今日雨で濡れたのでまた洗い直しです」という会話をスクアーロさんと交わして、ハンカチというスクアーロさんとの繋がりをキープしたなんとも役得な日だった。ランボには非常に申し訳ない、無事でよかった。
なんだかこんな思考回路を持ち合わせているところ、本当に恋をしてしまったのではないかと心配に思う。
して、今夜は嵐戦―隼人の試合である。隼人は不器用なやつで、頑張ってるのに報われない(主にツナへの思いが)可哀相なやつである。しかし結局可愛がってしまうのは隼人が寂しがりだからなのかもしれない。寂しがりなくせに甘えることができない辛さを私は痛いほど知っていた。なんてったって長女ですから。お互いがお互いに甘える場所を求めた。それは案外上手くいって、それは存外心地好かった。
「勝ったら『世界の謎と不思議』の増刊号買ってあげる。勝ったらね!」
「まじかよ!?」
「そのかわり負けたらラ・ナミモリーヌのフルーツタルトね。」
「別にいいぜ、俺は勝つからな!任せてください、十代目!」
「う、うん…頑張ってね!」
「よし、じゃあいくぜ!ほらなまえ先輩も。」
「え、」
「「獄寺ーッファイッ、オー!!」」
「おーおー若いってのははずかしいねぇ。」
「わ、私もそう思います…」
円陣を組んで隼人を激励し、観覧席に移動する。シャマルさんがセクハラしてくるのを了平が必死に止めていた。
バトルはほどほどに進んでいた。隼人へのダメージが大きかったが隼人もベルフェゴールに付けられたワイヤーに気づき、新技ロケットボムでベルフェゴールについに血を出させた。
「あ゙はぁ〜!流しちゃったよ王族の血を〜!!」
「…なにあれ、引くわー。」
「最近よく思うんですけどなんでなまえさんそんな冷静なんですか!?」
「いやだってぶっ飛び過ぎててなんとも…」
「ほぉ…ベルの奇行を見てその余裕かぁ。なかなかイイ女だぁ。」
「なっ、んですか口説こうったってそうはいきませんよ。」
「ム、何してるんだいスクアーロ。許さないよ。」
「なんでてめぇにんなこと言われなきゃなんねぇんだぁ!!」
「スクアーロさん…赤ちゃんに手出してたんですか!?」
「ちげぇえ!どっちかっつーと隠し子のが有り得そうだろぉ!」
「隠し子!?シャ、シャマルさん…大人って怖いんですね。」
「おぉーなまえちゃん、俺が慰めてあげよう。」
「ゔお゙ぉい!シャマルふざけんな!」
「うるせー邪魔すんな。お前は隠し子でも可愛がってろ。」
「隠し子じゃねぇえぇ!」
「スクアーロ、うるさいよ。ほら、ベルがチェックを決めたよ。」
安いコントの間にどうやら隼人が追い詰められたらしい。でもおかしい。隼人は全然「まいった」って顔してない。
「ししししっ、おっしまーい。」
「お前がな…」
隼人はどうやらベルフェゴールの派手なナイフ技のトリックを見破っていたらしい。さすがだね!いとかしこしだね!
しかしそう思ったのも束の間。ベルフェゴールの勝利への本能に隼人が不意打ちをくらう。ハリケーンタービンの爆発音にふざけていた私たちも含めて誰もが焦りだす。
「リングを渡して引き上げろ!」
「ふざけんな!手ぶらで戻れるかよ…!」
「獄寺!」
「タコヘッド!」
隼人は論理型で、喧嘩っ早いけど、頭の回るいい子で。実は結構波瀾万丈な人生で。頭で感情をセーブしようとするような子で。今もきっと、いろいろなことを考えてて。自分の命の使い所だなんて言うけど、本当はきっと帰って来たいんだよ…!
「ふざけんな!何のために戦ってると思ってるんだよ!!」
「ツナ…?」
「またみんなで笑いたいのに君が死んだら意味ないじゃないか!!」
「隼人っ…私の甘える場所、無くさないでよ…!」
爆音がした。ツナが床にへたりこみ、涙を流す。横にいるシャマルさんさえ、苦渋の表情をしていた。しかしリボーンの指差す方には血だらけ傷だらけの隼人がいて、私たちはみんなで駆け寄った。私は泣きそうなのを堪えて、隼人と山本の男の友情を見届けた。
「なまえ…」
「隼人、聞こえた?」
「おう、うるせー声がな。」
「、よかった。」
「泣いてんのか?」
「バカじゃないのんなわけないでしょ、バカじゃないの。あ!あんた負けたんだからラ・ナミモリーヌのフルーツタルト買ってきなさいよ!」
「けっわかってらぁ!」
がつん、と突き出した拳同士がぶつかる。そのあとフラフラした隼人は私の上に倒れ込んだ。
「ゔお゙ぉい、なんだぁあいつは。」
「なんだいスクアーロ、嫉妬かい?」
「んなわけねぇだろぉお!!」