21

「山本…」

「…なまえさん、見ててくださいよ。」

「見てるよ。山本のこと、ちゃんと見てる。」

「やった!」

「山本、死なないで。絶対。」

「どうせなら『頑張って』って言って欲しかったのな。」

「あはは!残念でした。でも、言ってないよ、スクアーロさんにも。」

「そっか。じゃ、俺にもまだチャンスはあるのな!」

「ん?」

「なんでもないのなー。」

「山本っ頑張ってね!」

「おう、任せとけってツナ。」


バシャバシャと山本のサンダルが水をはじく。ついに始まるんだなーと意外と楽観的になっていた。私がスクアーロさんにうっかり惚れてしまったことはどうやら衆知の事実だったらしく、こちらも予想外だったが簡単に受け入れられた。


「なんだかなぁ…」

「なまえ、お前スクアーロに何かされたか?」

「え?なんかって、なんです?」

「いや…その、」

「ディーノさん?」

「ゔお゙ぉい!このガキの無様な最期を目ん玉かっぽじってよく見ておけぇ!!」

「ハッ、俺はまだまだいけるぜ!」「それからなまえ!俺が勝ったら掻っ攫うからなぁ!準備しとけよぉ!!」

「へ!?」
モニターに映し出されたのはへばり付いた髪の毛を耳にかけながら、堂々とこっ恥ずかしいことを言うスクアーロさんで、そのあと視線は私に集中して、どうしようもない恥ずかしさで顔が熱くなった。ついでに言えば、了平が「姉貴は嫁にやらん!」とかシスコン発言するから周りからは笑いがこぼれる始末だった。


「何あれ、王子口あんぐり。」

「全くだね。見ているこっちが恥ずかしい。」

「カスが!」


「おい、ザンザスがご立腹だぜ…」

「いや私に言われても…私のせいなの!?」


私はまだ恥ずかしさでいっぱいいっぱいだったが、戦闘は随分と激しくなっていった。スクアーロさんが次々と繰り出す必殺技の名前にあたふたしながら二人を見ていた。山本の血が圧倒的に多い。痛いだろうに、彼は勝機を見つけたようだった。スクアーロさんはそんな山本を見ても余裕な表情で、またスクリーンに映る。カメラ目線だ、とかやっぱりかっこいいなぁ、とか呑気なことを考えていたら試合が動いた。


「何しに来た。」

「時雨蒼燕流…」

「ゔお゙ぉい、脳細胞がねぇーらしいなぁ!!」
誰もが山本をバカだと確信した。スクアーロさんと同じ意見だった。時雨蒼燕流がもうスクアーロさんに見切られていることは明らかだったし、山本のダメージが大きすぎた。


「さぁ打てぇ!!秋雨を!!」

「時雨蒼燕流攻式九の型…篠突く雨。」


当た、った…ボンゴレ側は歓喜に包まれ、ヴァリアーは動揺を押し殺す。私は山本の攻撃が当たった喜びとスクアーロさんが負けるかもしれないという負の可能性の両方を同時に感じた。


「このまま行くぜ!」

「調子に乗るなよ小僧!」


ぶわっと立つ水柱が緊張を煽る。決まる、勝敗が。

山本がスクアーロさんの後ろを捉えた。スクアーロさんの義手の左手が山本に剣を突き立てる。ところが山本かと思われたものは影であり、その隙に山本がスクアーロさんに一太刀。雨のリングは山本の手に収まった。


「勝ったぜ。」

「山本…すごいよ!あの激強のロン毛に勝っちゃうなんて!」

「極限よくやったぞー!」


負けた。スクアーロさんが、負けた。山本を祝う気持ちはある、嘘じゃない。だけど。


「時間となりましたので、獰猛な海洋生物が放たれます。」

「待って、スクアーロさんは…スクアーロさんはどうなるの?」

「スクアーロ氏は敗者となりましたので、命の保証は致しません。」

「そんな、」

「そんなことだろーと思ったぜ。」


よっ、と呟いてスクアーロさんを肩で支える山本。助ける気なんだ…


「山本っ…こんなこと言っちゃだめだって、思う、けど…助けて、スクアーロさんを、」

「当たり前だろ、そのつもりだぜ!」


ほっとしたのも束の間。サメが山本を引きずり落とそうと足場を崩す。あぶね、なんて笑っているが余裕はなさそうだ。


「ゔお゙、い…おろせぇ。」

「!?」

「剣士としての俺の誇りを汚すな。」

「でもよ、」

「ゔぉい、うぜぇぞお!」


スクアーロさんが山本を蹴り飛ばし、山本は反対側の足場に倒れ込む。


「ガキィ、剣の筋は悪くねえ。あとはその甘さを捨てることだぁ。」


サメが大きく口を開けて長い銀髪を飲み込む。水しぶきに包まれたあとに浮かび上がるのは僅かな紅。




「ゔお゙ぉいなまえ!俺が勝ったらかっ攫うからなぁ!準備しとけよぉ!!」


そう言ったじゃない



うそつき














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