19

「ふう、どうもありがとうございました。」

「あぁ心の底から感謝しろぉ。」

「いやー助かりました。」

「…………」


肉屋で豚コマを買ったあと(スクアーロさんはこの前と同じく高級肉を大量に買っていた)、この前行った公園に自然と足を運んでいた。同じベンチに腰を下ろしてやっぱりレモンティーをもらった。


「ごちそうさまです。」

「おう。」

「…今日、ですね。」

「そうだなぁ。」


なんとなくぽつりと言ってしまった言葉にスクアーロさんは律儀に反応してくれた。苦そうなブラックコーヒーを飲む横顔は大人の顔だった。


「今日、か…」

「なんだぁ、応援してくれんのかぁ?」

「…どうしましょう。」


本当は「はい」って答えそうになった。この人の隣にいるとこの人のことしか考えられなくなる。


「なぁ、一目惚れって信じるかぁ?」

「な、なんですか急に。」

「うるせぇ、信じんのかって聞いてんだぁ。」

「…私はしたことないですけど、一応。」

「俺はあるぞぉ。」

「いつですか?」

「ハンカチを、落としたことがあってなぁ。それを拾ってくれた女がいたんだ。日本人なんだがなぁ。」

「…………」

「好きなんだ。」


なにを、言ってるの。この人は私の揺れた感情を見抜いてるのだろうか。私がこの人に好意を寄せているのを見抜いてるのだろうか。今そんなこと言われたら、あなたの手を取ってしまう。私とあなたは敵対しているはずなのに。


「なまえ…」

「スク、アーロ さ…」


黒い手袋が私の頬に触れた。ぴくりと強張る身体。スクアーロさんは真剣な瞳で私を射抜いた。私は動くことも、目を逸らすことも出来ない。


「スク…」

「しゃべんな。」


優しい声色で自然と口を閉じるとそこにあたたかいスクアーロさんが重なった。

キス、だよね。私初めてなんだ、けど。


「…なまえ、勝ったら、」

「さっ、最低!」

「え?」

「乙女の純潔をこうも簡単に奪うなんて…!スクアーロさんなんて、おっ応援しませんから!」

「なっ、おいなまえ!ゔお゙ぉい!!」


全力で走った。豚コマは忘れてない。レモンティーも全部飲んでごみ箱に捨ててきた。いつもより走るのが早い。きっと、うれしいことがあったからだ。

でもどうしよう。私たちは敵同士。たぶん、幸せにはなれない。


幸せに、なりたいけれど












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