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「ふう、どうもありがとうございました。」
「あぁ心の底から感謝しろぉ。」
「いやー助かりました。」
「…………」
肉屋で豚コマを買ったあと(スクアーロさんはこの前と同じく高級肉を大量に買っていた)、この前行った公園に自然と足を運んでいた。同じベンチに腰を下ろしてやっぱりレモンティーをもらった。
「ごちそうさまです。」
「おう。」
「…今日、ですね。」
「そうだなぁ。」
なんとなくぽつりと言ってしまった言葉にスクアーロさんは律儀に反応してくれた。苦そうなブラックコーヒーを飲む横顔は大人の顔だった。
「今日、か…」
「なんだぁ、応援してくれんのかぁ?」
「…どうしましょう。」
本当は「はい」って答えそうになった。この人の隣にいるとこの人のことしか考えられなくなる。
「なぁ、一目惚れって信じるかぁ?」
「な、なんですか急に。」
「うるせぇ、信じんのかって聞いてんだぁ。」
「…私はしたことないですけど、一応。」
「俺はあるぞぉ。」
「いつですか?」
「ハンカチを、落としたことがあってなぁ。それを拾ってくれた女がいたんだ。日本人なんだがなぁ。」
「…………」
「好きなんだ。」
なにを、言ってるの。この人は私の揺れた感情を見抜いてるのだろうか。私がこの人に好意を寄せているのを見抜いてるのだろうか。今そんなこと言われたら、あなたの手を取ってしまう。私とあなたは敵対しているはずなのに。
「なまえ…」
「スク、アーロ さ…」
黒い手袋が私の頬に触れた。ぴくりと強張る身体。スクアーロさんは真剣な瞳で私を射抜いた。私は動くことも、目を逸らすことも出来ない。
「スク…」
「しゃべんな。」
優しい声色で自然と口を閉じるとそこにあたたかいスクアーロさんが重なった。
キス、だよね。私初めてなんだ、けど。
「…なまえ、勝ったら、」
「さっ、最低!」
「え?」
「乙女の純潔をこうも簡単に奪うなんて…!スクアーロさんなんて、おっ応援しませんから!」
「なっ、おいなまえ!ゔお゙ぉい!!」
全力で走った。豚コマは忘れてない。レモンティーも全部飲んでごみ箱に捨ててきた。いつもより走るのが早い。きっと、うれしいことがあったからだ。
でもどうしよう。私たちは敵同士。たぶん、幸せにはなれない。
幸せに、なりたいけれど