15
私は恋をしちゃったんでしょうか。相手が相手なだけにそんなことないと思いたい、けれど。どうにもこのハンカチを見るとドキがムネムネな訳で、こんなことは初めてで。かれこれ一時間くらい、ハンカチとにらめっこしている。
ただいまの時刻は午後十時半。リング戦初日の大事な夜である。ちなみに私が買ってきた豚コマは京子の手によっておいしい肉じゃがへと変身し、私たちの胃の中へと消えた。
「姉貴、そろそろ行こう!」
「京子はいいの?」
「あぁ、今コロネロ師匠と風呂に入っている。極限に今のうちだ!」
もう準備万端な了平が玄関で拳をあげる。急いで階段を降りて、靴を履く。いつでも逃げられるようにスニーカーにした。静かにドアを閉めて鍵をかけた。
「お兄さん!なまえさん!」
「お待たせ。」
「なんか夜の学校ってテンション上がるのな!」
「けっこれだから野球バカは!」
「ていうか私不法侵入じゃないよね捕まらないよね?」
「保証はしねぇぞ。」
「してよ!!」
「それにしても、静かだね…本当に並中でよかったのかな…」
「やつらまだ来てねーのかな。」
「とっくにスタンバイしてますよ。」
声の主を探して上を見るとピンクの髪のそっくりな二人の女の子がいた。ピンクって…
「厳正なる協議の結果、今宵の争奪戦の対戦カードが決まりました。」
「第一戦は晴の守護者同士の対決です。」
「ってことは…」
「了平!?」
了平の方を見るとモヒカンの人と睨み合ってた。やる気満々だ。どうしよう、戦うって決めた時から応援しようとは思ってたけど、いざ本番になると落ち着いてられない。しかも相手はあんな余裕そうにしてこっちバカにして…
「ちょっとそこのモヒカンー!何うちの了平バカにしてんのよー!」
「いきなりケンカ売ったー!?」
「んまぁっ生意気な小娘ね!あなたには興味ないわよ、あるのはスクちゃんくらいね。」
「ゔお゙ぉい!俺だってねぇぞおぉ!」
「姉貴を侮辱するな!極限に興味を持て!」
「頼むから落ち着いてー!」
ツナと山本に押さえられる笹川姉弟を呆れたようにスクアーロが見て、ため息。ルッスーリアに「恋の病?」と聞かれて試合前の彼にアッパーを食らわした。
「も、もう早く始めましょう!」
「よし、行ってくる!まかせとけ!」
了平がリングに上がろうとすると山本が円陣がどーのとか言いはじめ、みんなで円陣を組むハメに。どうでもいいかもされないけど私は中学三年間美術部で、円陣などとは無縁の生活を送っていたのだ。山本の野球部的思考に打ちのめされつつも、中学生たちと円陣を組んだ。自ら「了平ファイッ」と叫んだ我が弟のオバカ加減に萌えたものの、小さな声で言った「おー!」の恥ずかしさを隼人と共有していた。
「よーし!極限に勝つ!」
ボンゴレリングを首に下げ、ジャージを脱いだ了平とルッスーリアさんがリングの中央で対峙する。
「あらぁ?んまぁっよく見りゃあなたいい肉体してるじゃない!好みだわぁ〜!!」
「なに!?」
「…あいつ今、なんて言いました?」
「さ、さぁ…」
「ちょっとオカマ!うちの了平の肉体がいいのは当然でしょ!うまいもん食わしてんだからね!!」
「豚コマがかぁ?」
「豚コマはおいしいんですよ!!」
「ねぇ…なんでなまえさん急にあんな強気なの?」
「そういうやつなんすよ…」
隼人とツナがそんなことを話しているとも知らず、なまえはずっとヴァリアーに野次を飛ばしていた。