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急に公園に案内しろと言われてから10分。並森公園に到着した私たちはベンチに腰を下ろした。スクアーロさんは両手に担いでいたサーロインを置いたと思ったら、小銭をチャリチャリさせて、自販機に向かった。どこのチンピラだよ、とは思ったが、顔は良いイタリア男だ。何も言うまい、普通にかっこいいわけだ。
「ほらよ。」
「ありがとうございます。」
スクアーロさんは私にレモンティーの缶を放り投げて自分はコーヒーを開けながらどかりと横に座った。
「…私のこと覚えてますか?」
「そんなに記憶力が無いように見えるかぁ?」
「いえ、じゃあハンカチ落としたことも覚えてますか?」
「…覚えてねぇなぁ。」
自分でもどの柄のハンカチを落としたのかわかっているのだろう。これはきっと照れ隠しだ。そりゃあ大の大人の男があんなかわいいハンカチを落としたら恥ずかしいに決まってる。暗殺者という肩書きがつけばなおさらだ。
「素直に言えば返してあげますよ。」
「ゔぉい、ガキ。調子に乗るなよぉ。」
引き攣った笑みを浮かべるスクアーロさんに拾ったハンカチをひらひらと見せつける。
「さぁほらほら。」
「てめぇ…!」
スクアーロさんが長い腕を私に伸ばした。それを避ける為に私は無理に腰を捻る。あ、痛いと思って咄嗟に手をつこうとしたら、ばしゃっと豪快な音をたてて私のレモンティーが零れた。
「………」
「………」
「…バカなのか?」
「ちょっと黙って貰えませんか。私も一応ショック受けたんで。」
瞳に光るものがあるがそれはレモンティーではないだろう、そうスクアーロは思った。スクアーロはその隙を逃さず、ハンカチを奪い取ると、なまえのスカートのレモンティーを拭いた。
「…なんのつもりですか。」
「あ?」
「優しさのつもりですか!イタリアの伊達男め!」
「ゔお゙ぉい!なんで八つ当たりされなきゃなんねぇんだぁ!」
「触んないで下さい!破廉恥!」
「はっ…!?」
最悪さいあく!余裕ぶっててレモンティーこぼすなんて最悪!スクアーロさんが予想外に構ってくれたのに図に乗ってはしゃぐなんて恥ずかしい恥ずかしい!しかも八つ当たりまでして…子供みたい。
「っと、そろそろ帰らねぇとボスさんに怒られちまうからなぁ。」
「…ハンカチ。」
「まだ濡れてるだろぉ、使え。」「え、あの、あ…ありがとう、ございます。」
「じゃあなぁ。」
くしゃりと私の髪をなでて、肉を担いでスクアーロさんは帰って行った。私はというと、彼の置いていったハンカチを火照る頬で眺めていた。彼の触った髪を自分の手で握る。やだな。
これじゃ、彼のことが好きみたいじゃない